安倍政権でさえ掲げた「財政健全化」を捨てるのか?
また、木内氏は熊野氏と同様に、菅氏の政策プランに「財政健全化」が欠けていることを強く心配する。
「財政健全化という方針が、菅氏の政策綱領に含まれていない。少なくとも安倍政権では形式的には掲げ続けてきたこの方針が外れたことは、名実ともに財政健全化が後退することを意味する。それは、経済や金融市場の安定の観点からは大きな懸念材料だろう。安倍政権と比べて菅政権の経済政策は、やや左派色が強まる。政策綱領の3番目には雇用確保、5番目には安心の社会制度を掲げている。また菅氏は、待機児童問題を終わらせる考えを強く示している。こうした政策はさらなる財政支出の拡大に繋がる可能性を秘めている」
そうでなくてもコロナ対策で、今後大きな財政支出が考えられる。木内氏は、将来の財源確保と財政健全化の議論に真正面から向き合うべきだと訴えるのだ。
木内氏はまた、菅氏が総務省畑の出身ということもあり、金融政策にほとんど関心がないことも心配する。
「金融政策についての菅氏の関心はあまり高くない。金融政策についても、安倍政権の姿勢を継承すると説明しながら、菅氏の6つの政策綱領の中に金融政策への言及はない。討論会や記者会見で金融政策について問われても、安倍政権の政策姿勢を継承する姿勢を示すだけで、具体的な考えは示していない」
そんな菅氏に代わって、木内氏はこう提案するのだった。
「需要を刺激することを通じてデフレを克服しようと、国債発行で賄う形で財政支出を拡大すれば、日本経済の潜在力を一段と低下させてしまう可能性がある。国債発行の増加は将来の需要を前借し、また世代の負担を増やすことになるため、企業は中長期的な成長期待を低下させ、設備投資の拡大、雇用の増加や賃金の引き上げにより慎重になってしまう、と考えられるためだ」
「こうした点から、潜在成長率を高め、生産性上昇率を高める経済政策の大転換を、菅新政権には強く求めたい。生産性上昇率の向上は実質賃金上昇率の向上をもたらし、広く国民が自らの将来の生活に明るい展望を持てるようになるだろう。菅政権は、前政権の経済政策の効果と副作用を十分に検証した上で、デフレ克服を目標にする需要創出策から、日本経済の生産性を高めるサプライサイド(供給側)政策へと、一気に舵を切るべきだと筆者は考える。しかし、それは残念ながら期待できそうもない」
(福田和郎)