アマゾン流イノベーションとは何か!? テクノロジー使わず狙う一石二鳥

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   オンライン書店としてEC(電子商取引)をはじめ、世界のオンラインビジネスのけん引車となった「アマゾン」。インターネットの進化とともに取り扱う品目を増やして最大級の小売事業者となり、日本でもアマゾン・ジャパンは消費生活に欠かせない存在になっている。

   本書「アマゾンで私が学んだ新しいビジネスの作り方」は、日本上陸間もないころから十数年間、アマゾンに勤務して多くの新規事業を担当した著者が、内側からの観察で成長の軌跡を振り返った一冊。著者によると、アマゾンの飛躍を支えているのは「イノベーション」を欠かさないこと。しかし、それは「問題解決」力にあると明かす。

「アマゾンで私が学んだ新しいビジネスの作り方」(太田理加著)宝島社
  • 飛躍を支えたのは「イノベーション」
    飛躍を支えたのは「イノベーション」
  • 飛躍を支えたのは「イノベーション」

アマゾンで数々の新規ビジネスを担当

   著者の太田理加さんは大学を卒業してから国際物流会社などでマーケティングを担当。その後、英国に留学。帰国後の2002年にアマゾン・ジャパンに入社した。当時、アマゾンが日本語サイトの「書店」をオープンして2年目。「Amazon.co.jp」の知名度は、もちろん今ほどではなく、書籍以外の取り扱いもあったが、その名を知る人でも、「アマゾン=オンライン書店」という認識だった。

   だが、社内ではすでに「総合ストア」への発展を目指し、新規ビジネスを立ち上げようとする動きが盛んになっていた。著者も入社2年目から関わるようになり、2015年に独立して自ら起業するまでに「スポーツ」「ヘルス&ビューティー」「シューズ&バッグ」などのカテゴリーを立ち上げ「アパレルストア」の事業責任者を務めた。

   数々の新規ビジネスを立ち上げ、成功させてきた経験から著者は、新規ビジネスを理解するカギは「イノベーション」と指摘。その言葉のイメージは「技術革新」だが、何も新しい技術を駆使して行うことだけが新規ビジネスなのではなく、新しい技術を含む利用できるものを動員して行う「問題解決」がその核心。しかも、理想的には「一石二鳥の問題解決」だ。

仕掛けじゃない

   著者が実際に一石二鳥の問題解決ができたと思ったのは「シューズ&バッグ」の事業責任者だった2008年ごろだった。

   通販の靴販売での最大の問題はサイズ。著者は、レディースシューズの基本サイズ23.0センチで幅もアーチの部分も平均的な足の持ち主の女性を選抜。この女性に毎日入荷してくる23.0センチの女性靴を履いてもらい、「幅がきつい」「サイズが大きい」「かかとが細い」など、アイテム別に特徴を入力してもらうようにした。

   これらのコメントを蓄積してデータ化して商品ページに記載し、サイト利用者の靴選びの際の参考として活用され売り上げを伸ばすことができたという。

   著者はまた、足のモデルの女性を「シンデレラ」と命名。このネーミングの妙がメディアの関心を呼び、記事やニュースでさまざまに取り上げられた。問題解決としてのアイデアが、アマゾンのイノベーションとして知られるようになり、その結果、販売事業も快走。「シンデレラは『アマゾンが顧客満足度を上げるためにここまでやっている企業だ』というイメージを多くの方に伝えるきっかけになった」と、著者は胸を張る。

   だが、著者には当時、このことがイノベーションだという感覚がなかった。この「シンデレラ」をアイデアではあると考えていたが、イノベーションとは、エンジニアが何か仕掛けをつくって実現するものと考えていたからだ。著者は、自身のほかにも同じように考え頭を抱えている人がいるのではないかと考え、決してそうではないことを知ってもらうためにも本書を上梓した。

ベゾスCEOのひと言で開眼

   「シンデレラ」をイノベーションの一つと確信したのは、アマゾン創業者でもあるジェフ・ベゾスCEO(最高経営責任者)のお墨付きを得たからでもある。

   2012年に来日したベゾスCEOと接する機会を得た著者は、「どうすればイノベーションを起こせるのか」と質問。するとベソスCEOは、「シンデレラ」を指摘して「君をすでにイノベーションを起こしたじゃないか」と回答。「本当に素晴らしいイノベーションだ。2つの問題を両方解決している。『シンデレラ』という仕組みがなかったら、お客様だって困るし、メディアにもこんなに取り上げられなかった。一気に認知度が広まったじゃないか」

   ベゾスCEOの「一石二鳥」指摘に「なるほど」と著者は合点。「それなら私にもイノベーションを起こすことはできる。そして誰にもできるはずだ」。ベゾスCEOのひと言は、著者にとっては、イノベーションに対する認識が根本的に変わったきっかけだったという。

   本書には、「シンデレラ」を最初の例として、著者が経験した数々のイノベーションを紹介。「テクニックやビジネスのアイデアというよりも、考え方や本質に触れられるように内容を心がけて書いた」という。

「アマゾンで私が学んだ新しいビジネスの作り方」
太田理加著
宝島社
税別1800円

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