英国とEU(欧州連合)は2020年9月8日から10日までの予定で、自由貿易協定(FTA)締結交渉の第8回全体会合を始めました。
しかし、双方の溝は依然として深く、とても合意に至りそうに見えません。
ジョンソン英首相が「離脱協定案に不備」といちゃもん
ジョンソン英首相は会合が始まる前の7日に、EUとの合意期限を10月15日と一方的に設定、仮に交渉が決裂しても離脱によりEUから真の独立を得ることができるため「英国にとって良い結果だ」と主張しています。
しかも昨年(2019年)、なんとか合意に至った「離脱協定案」に重大な不備があるとして、主要合意部分を反故にする「国内市場法案」の議会提出を検討していることまで判明。関係は一段と険悪化しています。
ジョンソン首相は何を考えているのでしょう?
もし仮に英国とEUとの間にFTAがまとまらなかった場合、英国が被る経済的被害はあまりにも甚大です。それでも、EU側もそれなりに経済的悪影響を被るため、それを避けたいがために、最後に折れてくるだろうと圧力をかけ続けているようです。
ハプニング的にハードブレグジットとなった場合、ジョンソン首相はどう責任を取るつもりでしょう。
国境にトラックの長い列ができ、税関を通るのに何日もかかる、コロナ禍で必要な薬が欲しくても手に入らない。こういう状況になる可能性はあります。如何にジョンソン首相の人気が高くても、政治的に厳しい立場に追い込まれるでしょう。
英国に在住している人達から見ると、ジョンソン首相は本当に、心の底からハードブレグジットが正しいと信じているように見えます。EUからの強行離脱が避けられないのであれば、自衛手段を取るしかありません。欧州からさまざまな商品が入ってこなくなる可能性も考慮し、十分な量のストック備蓄を目指して、買い込んでいる主婦の方々もいらっしゃいます。
FTA合意はもつれにもつれて......
さて、本当にハードブレグジットとなった場合、英ポンド/ドルはどうなるのか――。おそらく、対ドルで1.20ポンドを割り込んで行くことになるでしょう。それほど、英国の被る被害は甚大です。
その一方、FTAが締結され、望ましい順調なブレグジットが実現した場合はどうなるのか。この時、ポンドは買われます。1ドル=1.35ポンドのレジスタンスを突破し、1.40ポンドを優に超える上昇となるでしょう。
このハードブレグジットか、ソフトブレグジットかで、ポンド/ドルの行方はまったく違ってきます。よって年末に向けて、このブレグジット交渉は非常に重要になってきます。
ジョンソン首相はハードブレグジットを志向しているように見えますが、それはやはり「歌舞伎プレー」であり、EU側の譲歩を引き出すためだけにやっているはず。そう信じたいのですが、真意はわかりません。
10月末が合意期限と、今は見られています。その時までに合意しないと、12月末までにEU27か国の批准が得られないからです。
しかし、10月末はもうすぐそこです。とても無理そうに見えます。おそらく交渉は10月末を過ぎても行われ続けるでしょう。もつれにもつれ12月ぐらいにやっとFTAが合意される、そんなふうになるのではないかと思われます。
では、なぜ延びるのか――。
それは欧州復興基金が合意されたとき、当初7月17~18日の2日間でEU首脳会議が開催されましたが、もつれにもつれ、3日間延長されて21日に合意に至りました。しかし、もしかしたら当初から3日間延長する予定だったのかもしれません。合意に至るためには妥協が必要であり、各国の国内政治に影響を与えます。トコトンまで戦ったがダメだった......。こうした、戦った証拠が政治的には必要になってきます。
妥協するにしても、ジョンソン首相は政権を支持する保守派の国民が納得する形で妥協しなければなりません。そのためには、期限を越えて粘り強く交渉したという「証拠」が必要になってくるでしょう。
もつれはしますが、最終的にはFTA合意に至る可能性が8割ではないか、と思います。そのときには、ポンドは上昇します。また、そうならなかった時、その時はその時であり、ポンドは1ドル=1.20ポンド割れに向けて下降するものと思われます。
どちらにしても、大きな相場が2020年の最後に待っています。(志摩力男)