「自宅で注射するだけで簡単にダイエット!」オンライン美容医療が危なすぎる! 専門医学会も「医師の風上にもおけない」と警告

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   新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、すっかり「オンライン」がブームになっているが、「自宅でダイエットが完結!」をうたい文句にしたオンライン美容医療が問題になっている。

   海外では肥満治療に使われている「糖尿病薬」をオンラインで医師の診察を受けつつ、自宅で自己注射するのだ。しかし、日本では糖尿病治療以外の処方が認められておらず、深刻な副作用のおそれもある。

   国民生活センターをはじめ日本糖尿病学会や日本美容外科学会など関連する医学会も、不届きなクリニックや医師たちに警告を発した。

  • ダイエット効果が認められた医薬品は日本にはない!(写真はイメージ)
    ダイエット効果が認められた医薬品は日本にはない!(写真はイメージ)
  • ダイエット効果が認められた医薬品は日本にはない!(写真はイメージ)

重い副作用があるのに医師がしっかり説明しない

   国民生活センターが2020年9月3日に発表した「自宅で手軽に完結? 手軽にやせられる? 痩身をうたうオンライン美容医療にご注意」という警告によると、代表的な被害の事例は次のとおりだ。

【事例1】アドバイザーから自己注射の方法や薬剤の量を指示されるだけで、副作用が出ても医師の対応がない。
   インターネット検索で、オンライン診療で痩身治療を行うクリニックを見つけた。「食事制限や運動は不要」という広告に興味を持った。またホームページではオンライン診療について「場所を問わず診察を受けられる」「通院時間ゼロ、待ち時間ゼロ」「オンラインチャットですぐに医師と相談できる」とあった。
   オンライン診療用のアプリをダウンロードし、無料カウンセリングを予約した。予約日にビデオ通話でアドバイザーと名乗る人から連絡が来たが、電波が悪いと通常の電話に切り替えられた。アドバイザーから「薬剤を自身に投与する治療だ。薬剤はまれに副作用が出るが、数日で落ち着く」などと言われ、コースや料金、自己注射の方法を説明された。
   その後、医師に代わったが診察はなく、治療を受けるかどうか聞かれただけだった。指定された口座に治療費50万円を振り込み、数日後、注射器、サプリメントなどが届いた。別の日に海外から原則冷蔵保存されるはずの薬剤が常温で届いた。自分で薬剤を注射したが、吐き気など副作用が出てつらかった。クリニックに相談したが、アドバイザーから薬剤の量の指示を受けるばかりで医師の対応はなかった。ダイエットの効果も感じられないので解約、返金してほしい。 (30歳代、女性)

【事例2】薬剤は糖尿病治療薬で個人輸入になること、重篤な副作用があることなどの説明が不十分だった。
   痩身治療を行うクリニックのインターネット広告を見て、電話をすると「オンライン診療用のアプリをダウンロードして下さい」と案内があり、その後はアプリ内のテレビ電話でやり取りした。カウンセラーから「体に元々あるホルモンを自己注射して増やせばやせられる」と言われ、安全なものかと思った。副作用について尋ねると「軽い吐き気と頭痛を起こす可能性があるが、安心して」と言われた。注射の仕方については説明書もあると言われた。
   10 キロほどやせたいと伝えると、4か月50万円のコースを勧められた。「今日契約すれば5万円割引する」と言われ、契約した。テレビ電話で医師から5分間ほど、目標体重や持病について聞かれた。後日、注射針や治療に関する書面が届き、内容を確認すると薬剤は本来、糖尿病治療薬であること、海外から個人輸入で購入すること、カウンセリングや医師からの診察で説明のなかった重篤な副作用が発生する可能性があることなどの記載があり、不安になった。解約したい。(20歳代、女性)

SNS上のやり取りだけで高額の契約金... 解約できず

オンライン診療でダイエット目的の治療を行う流れ
オンライン診療でダイエット目的の治療を行う流れ

【事例3】食事制限は必要ないと言われて治療を継続したが、針を刺した部分に赤みが出ており、ダイエット効果も感じられない。
   SNSで「自己注射でやせる」という広告を目にしてクリニックのホームページにアクセスした。ホームページの説明で、オンライン診療を受けながら自宅で薬剤を自己注射すること、欧米では肥満治療薬として承認されている薬剤だが、日本では糖尿病薬として承認されていることを理解した。電話で過去の体重の推移等の情報を伝えると、1か月コースでの減量は難しいといわれたので、3か月コースを選んで契約した。
   医師から「食事制限などは必要なく、ストレスになるので体重は量らない方がよい」と言われた。3か月間、月1回のオンライン診療を受けているが、1回目の診療時間は30分、2回目と3回目は 15分もかかっていない。注射は毎回腹部の違うところに打つので、その部分に赤みが出て跡が残っているが、医師からは自然に治ると言われた。3か月経過したが、1キロしかやせない。思っていたほどの効果もなく、医師の対応も不満なので減額してほしい。(50歳代、女性)

【事例4】SNS上のやり取りでカウンセリングを受け、不安に思い解約を申し出たができないと言われた。
   「来院なし、自宅で診断、薬を処方」という美容クリニックのインターネット広告に興味を持ち、無料カウンセリングを申し込んだ。クリニックからカウンセリングはSNS上でやり取りすると言われた。SNSでカウンセラーから「ホルモン注射が送られてくるので自分で注射する。持病はあるか」と聞かれたが、薬剤に関する説明はなかった。その後、医師に代わり、ビデオ通話で簡単な問診を受けた。
   申込時に「クレジット契約の審査が通れば申込みしたい」とSNSでメッセージを送った。審査は問題なかったが、30万円という高額な契約なので「やはり今一度考えたい」と伝えると、「クレジット契約の審査が通った時点で契約は成立しているので解約できない」と言われた。納得できず、困っている。(40歳代、女性)

禁じられているビフォー・アフター写真で宣伝

   国民生活センターでは、まず、オンライン美容クリニックの多くが「ダイエットに効果がある」とうたっている薬剤が問題だとしている。

   国内では2型糖尿病治療薬として承認されている薬剤「GLP-1受容体作動薬」を痩身目的で処方しているケースが多くみられるからだ。2型糖尿病とは、日本人の糖尿病のうち95%を占めるもので、主に運動不足や肥満などが理由で罹るとされているが、詳しい原因はわかっていない。遺伝性の要因もあり、家族に患者がいるとかかる確率が多いとされている。

   「GLP-1受容体作動薬」を海外では肥満治療薬に使うケースもあるが、日本人の遺伝的特性に適合するかどうか確認されておらず、国内では糖尿病治療薬として以外の処方を認めていない。

   つまり、適応外診療になるわけだ。医師は患者に対して品質と有効性、安全性が確認されたものでないことや、副作用に危険性があることを、きちんと説明する義務がある。

   問題になっているケースでは、それらのことがほとんどなされていない。日本糖尿病学会も2020 年7月、オンライン美容クリニックで「GLP-1受容体作動薬」をダイエットのために処方するケースが後を絶たないため、

「一部のクリニックでGLP-1受容体作動薬を美容・痩身・ダイエット等を目的として処方する広告が散見されますが、日本人における安全性と有効性は確認されていません。医師とくに本学会会員においては、不適切な薬物治療によって患者さんの健康を脅かす危険を常に念頭に置き、誤解を招きかねない不適切な広告表示を厳にいましめていただきたい」

という警告を発した。

   また、国民生活センターと日本糖尿病学会の強い警告を受けて、日本美容外科学会、日本抗加齢医学会、日本美容医療協会も9月3日、会員の医師たちに対して連名で次のような見解と声明を発表した。

「ビフォー・アフター写真や、費用を強調した広告など、オンライン診療ガイドラインに沿わない不適切な診療が行われていたクリニックがあります。痩身治療としては未承認の糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬)を処方し、患者に自己注射させていたクリニックの中には、治療により生ずるおそれのある不利益、急病急変時の対応方針等について、医師から患者に対して十分な情報提供がなされていないと認められる事例がありました。私たちは、医療機関が医療広告ガイドラインやオンライン診療ガイドラインを遵守することなく、患者を誤認に導き、不安や健康被害を与える行為に断固反対します」

   国民生活センターでは、

「使用する薬剤について『アメリカ、欧州で肥満治療薬として承認されている』『日本では厚生労働省の許可済みの糖尿病治療薬』といった表記には十分注意しましょう。国内では、現在、痩身(ダイエット)目的の使用に関して承認されている医薬品はないのですから」

と呼びかけている。

(福田和郎)

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