女子駅伝の四つん這い事件とコロナが日本人を変えた?
韓国人は「恨(ハン)の民族」といわれる。「恨」とは感情的なしこりや、痛恨、悲哀、無常観をさす言葉で、朝鮮文化や思想ではすべての根幹になっている概念だという。そんな韓国人にとって、お涙ひとつで過去を水に流し、安倍首相の支持率が一気に上がる日本は理解しがたいようだ。
いくつかの「日本人論」が韓国メディアに登場したが、「コロナによって日本人の働き方に対する考え方が変わったからだ」という視点を提供した朝鮮日報のコラムが興味深いので紹介したい。
朝鮮日報(9月3日付)「記者手帳:180度変わった安倍首相の辞任記者会見」で、イ・ヒョンスン記者は、安倍首相は13年前にも突然の辞任会見を行ったが、今回の辞任会見との違いをまず、こう述べている。
「安倍首相は13年前にも(持病による)突然の辞任宣言で日本中を驚かせた。日本メディアは『甘やかされて育ったお坊ちゃまの逃亡』といった刺激的な解説記事を載せたが、今回は安倍首相を拍手で慰労した。過去8年間で安倍首相が挙げた成果と批判された点、次期内閣の課題を冷静に分析する記事を書いた。これは、コロナのおかげで、日本が健康問題で辞める人たちを理解して抱擁する社会へと変貌し始めているからだ」
と、イ・ヒョンスン記者は指摘する。
そして、日本社会に根付いてきた病人に対する冷たさと精神主義を、
「健康問題で辞めることに対して、日本人はとりわけ眉をひそめる。個人的な理由で集団に迷惑をかける行為を極度に警戒するうえ、体力を精神力と関連付けて考える。第2次世界大戦当時、物理的に西欧に対抗することができなかった日本は、『精神が物質に優先する』という論理で国民の士気を高めた。そのような思考が現在も心の奥深くに残っている。おかげで『体調が悪かったら休め』という日本政府の新型コロナの指針は国民に浸透しなかった。病気になると遠慮せずに休暇を取得する西欧の会社員とは異なり、日本人は風邪の症状程度では休まなかった。結局、多くの人がウイルスを他人にうつしてしまった」
と、述べている。
そんな日本人の「精神主義」を変えるきっかけになった事件が、2018年10月に福岡で行われた女子駅伝のレースだったという。19歳の女子選手が片足を骨折して走れなくなったにもかかわらず、300メートルも四つん這いになりながら次の選手にたすきを渡した。路面上に血が点々としたたる映像が全世界に流れて衝撃を与えた。美談か愚挙か、大激論になった。