10年ほど前まではインターネット利用の起点は、ヤフーやグーグルだったから、企業のネット担当者は検索エンジンの最適化(SEO)に躍起になっていた。
それも今では様変わりし、インターネット利用者のホームポジションはポータルからSNSに移行。企業にとっては、それぞれのSNSの特性や影響力を考えながら、自社のアピールに工夫を凝らすことが欠かせない。
本書「自由すぎる公式SNS『中の人』が明かす 企業ファンのつくり方」は、人気企業ツイッターの「中の人」の日々の試行錯誤を追い、その中で培ってきた利用者を引き付けるノウハウを聞き出し、まとめた。SNS運用者ばかりでなく、商品企画や開発、宣伝などのフィールドでも参考になる一冊。
「自由すぎる公式SNS『中の人』が明かす 企業ファンのつくり方」(日経トレンディ・日経クロストレンド編)日経BP
真摯に真剣に、真面目に利用者と向き合う
本書にツイッター担当者が登場する企業は、セガグループ、東急ハンズ、キングジム、井村屋、タカラトミー、タニタ―。マーケティング戦略や商品開発、新事業創造について最先端情報を提供するデジタルメディア「日経クロストレンド」で2019年6月から連載していた「『中の人』が語る 人気SNSのつくり方」を基に、登場6社の「中の人」による座談会やアンケートを実施して加筆した。
本書のタイトルは当初「全然ゆるくない! SNS『中の人』が真面目に語る〈伝わるTwitter〉」というものが仮に付けられていたが、それは、「中の人」がどれだけ真摯に真剣に、また真面目に利用者と向き合っているのか伝えたいと考えたからという。
SNSマーケティング支援企業のアライドアーキテクツがツイッターユーザーを対象に2019年5~6月に実施した「Twitter企業アカウント利用に関する意識調査」によると、複数のSNSのうちツイッターで最も多く企業公式アカウントをフォローしているユーザー(n=685)に「SNSで見たことをきっかけに企業の商品やサービスを購入したことがあるか」を聞いたところ、「ある」と答えた割合は76.9%にのぼった。
企業と消費者が接するポイントは多くあるので、ツイッターだけに力を入れればいいということにはならないが、一つのツイートが購入意欲を促進できるケースが増えていることから、企業を代表して、おのずと真面目で真剣にもなる。
たとえば、東急ハンズはツイッターで午前10時のあいさつを欠かしたことがないという。定時のツイートを継続することで、気にかけてもらえるようになりフォロワーが増え応援を得られるようになる。リアルタイムの発信で共感が広がり売り上げアップにつながるのだという。
「販促型」と「コミュニケーション型」
2008年に上陸したツイッターは、利用者を限定する運営でクローズドなミクシーに対し、オープンで多くの人へと情報が拡散される仕組みは魅力的だ。利用は基本的に無料で、フェイスブックやラインの企業活用が進むなかでも、ツイッターは「匿名性」によるゆるいつながりが期待でき、利用価値は一段上。利用しやすさから若者を中心に利用が増え続けており、企業にとっては利用しない手はないコミュニケーションツールであり、消費者向けメディアなのだ。
企業のツイッター運用方法は大きく「販促型」と「コミュニケーション型」に分けられる。販促型の例はプレゼントキャンペーンの展開。これはフォロワーが増えるが、景品目当てで集まったものなので自社のコアなファンづくりにつながるかどうかは不確かだ。自社商品を楽しんでもらう姿勢でツイートを続ける「コミュニケーション型」の方が、ファンにつながるフォロワーを増やし、販促の効果を高めることにつながるという。6社はいずれも後者のパターンで成功している。
コロナ禍でも欠かさず
2020年が明けて間もなく新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われ、各社のツイッターにとっても想定外の事態だったが、6社はそれまで通り明るさを前面に出したコミュニケーションを忘れず、それぞれの役割を果たしていた。
タカラトミーは多くの学校が臨時休校に入った3月2日に「今、我ら大人の長年の叡知を見せつけるとき!」として「小中高生もできる『#休校中おすすめの過ごし方』をツイートしませんか...?」と呼びかけ、約4000本の映像を取りそろえている自社のユーチューブチャンネルを紹介。このハッシュタグには多数のアイデアが寄せられた。
キングジムは「密集回避」「換気」「咳エチケット」など、パソコン接続可能な「テプラ」で作成できる8種類のイラスト入りラベルデザインを提供。タニタは、外出自粛で多くの人が運動不足になっていることから、「不要不急で暇な人は体重計に乗ってみよう」とツイート。体組成計・体脂肪計メーカーだからこそ発することができる内容がフォロワーには響いたようで、リツイート1600件超、「いいね」4400件超を集める人気ツイートになった。
東急ハンズは4月に入って多くの店舗が臨時休業になったが朝のあいさつは休業なし。「ネットストアは今日も元気に営業中」とツイートし続けた。また4月23日には「東急ハンズが営業再開したら何を買いまくりますか?」と問いかけ、多くのリプライが集まった。
東急ハンズの担当者は「中の人」ではなく、顧客の近くにいる「そばの人」だと表現。消費者に寄り添い、双方向のコミュニケーションを心がけ、毎日ツイートすることで消費者との良好な関係を築けるという。
「自由すぎる公式SNS『中の人』が明かす企業ファンのつくり方」
日経トレンディ・日経クロストレンド編
日経BP
税別1500円