担当編集者によると、本書「「新・仕事力『テレワーク時代』に差がつく働き方」の著者、大前研一さんは国内外を問わず、どこにいてもインターネットがつながっていれば昼夜に関係なく、いつでも原稿を送ってくるという。
そこでついた異名が「ミスター・テレワーク」。テレ―ワークは、新型コロナウイルスの感染拡大で一変したビジネスシーンの新しいメインストリームだが、世界のビジネスパーソンにとってはすでに標準的な働き方であり、大前さんは、コロナ禍をきっかけに「日本ではこれから、本格的なテレワーク時代が到来する」と指摘する。それに備えて、より実践的な仕事術や考え方を学べる一冊。
「新・仕事力『テレワーク時代』に差がつく働き方」(大前研一著)小学館
テレワークには仕組みが必要
テレワーク、リモートワークは、単に自宅や、社外のワークスペースで出勤のときと同じようにパソコンと向き合えばいいというわけではない。このコロナ禍を奇貨として、ビジネスマンは「より効率的な『テレワーク術』を身につけるべき」であり、企業はテレワークのためのシステムや制度を整えることが大切だ。
大前さんが学長を務めている「ビジネス・ブレークスルー(BBT)大学・大学院」では2005年の創立以来、学生の7~8割が社会人で、仕事をしながらリモートで学んでいるのだが、以前から先進的なシステムが導入されている。BBT大学・大学院にはコロナ禍のなか、そのことを知った企業などから問い合わせが相次いでいるという。
リモート講義は多くの学校で行われているが、困難とされるのが出欠の確認。BBTのオンライン教育システム「エアキャンパス」の仕組みは巧妙だ。パソコンのクロック(時計)と同期して1時間に5回、画面上にランダムなアルファベットと数字の組み合わせを表示し、タイミングを合わせて同じ組み合わせを入力したら出席と認める。
スマートフォンで受講しキーボード操作が難しい場合は、スマホ搭載の加速度センサーを利用し、アルファベットと数字が表示されたらスマホを振るか、画面をタップして承認されるようにしている。これらの技術は特許になっている。
BBTのこうしたシステムがそのまま企業のテレワークに応用できるかはともかく「オンライン授業やテレワークは従来とは全く違う発想とルール、仕掛けでやらねばならない、ということ」と大前さん。
BBTではまた、学生同士がオンラインで行うディスカッションで、相手の意見に賛成ならスマホを縦に、反対なら横に振るという技術も導入。こちらは「企業がテレワークで社員に経営方針や日々の業務に対する指示を伝えて双方向のコミュニケ―ションを取る際に応用することもできる」という。
時代にあったテレワーク術を身につける
大前さんによると、この20年間、先進各国の名目賃金が軒並み上昇しているのに対し、日本だけがマイナス。1970年代、主要国の中でもトップクラスだった日本の家計貯蓄率も年を追うごとに下がっている。
そこに追い討ちをかけるように到来したのが新型コロナウイルスだが、大前さんの見方は「追い討ち」ではなく「千載一遇のチャンス」。「テレワークによる真の『働き方改革』が拡大すれば、日本の労働生産性は飛躍的に向上するだろう。そうなれば『稼ぐ力』が高まり、災い転じて福となすことができる」という。
そのためには、浸透してきたテレワークを単なる「在宅勤務」にしてはならない。企業は、BBT大学・大学院などのリモート用システムなどを参考にして体制づくりを急がねばならないし、働く人たちは時代に合ったテレワーク術を身につけねばならない。
米国は国土が広く、営業マンは旅ガラスのよう転々と移動を重ねるのでテレワークが浸透している。自動車で次の目的地に向かっている間に、それまでの成果を口頭で会社に報告。メーカーの会社はアウトソーシングや音声変換装置などを活用して記録を残す。
「日本の営業マンもそういう働き方ができるようになったら、物流拠点以外に支店や営業所は必要なくなり、そこにいる中間管理職も不要になる。担当者が交代する場合も、顧客データの引き継ぎが簡単にできる」
テレワークで労働生産性を上げる手段として、セールスフォース・ドットコムのような営業支援ツール(SFA)を活用して、効率的なルート管理、クライアント情報の管理なども提案されている。
本書は、政府による「働き方改革」が的外れであることを指摘し、これからのビジネスパーソンに求められる能力・条件を解説した「個人が企業を強くする」をベースにした。新型コロナウイルスの感染拡大で国内外の情勢が一変したのを受けて、関連の話題や見解を追って加筆した新書版。新型コロナが経済や社会にもたらす影響は計り知れず、そうしたなかでビジネスパーソンにとって、この先、仕事をしていくうえで指標になる一冊。
「新・仕事力『テレワーク時代』に差がつく働き方」
大前研一著
小学館
税別820円