「反日」を旗印に掲げてきた文在寅(ムン・ジェイン)政権にとって、「韓国叩きの元凶」と目されてきた安倍晋三首相の突然の辞任表明はショックだったようだ。
安倍首相と文大統領は、互いに相手を攻撃することで国内の支持を高めあう「敵対的共生関係のパートナー」(朝鮮日報8月23日付)同士だったからだ。
そんなわけで、今、韓国政界に「安倍ロス」の喪失感が広がっているという。韓国紙で読み解くと――。
「安倍が退いた後の喪失感をどう回復したらよいのか」
安倍晋三首相が辞任表明の記者会見を開いた2020年8月28日、はっきりと「安倍ロス」の気持ちを表明したのは、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権の与党・共に民主党のイ・ゲホ国会議員だった。
イ・ゲホ氏は農林畜産水産族の議員である。特に、排他的経済水域の漁業権をめぐる日本と韓国との対立では、野党だった朴槿恵(パク・クネ)政権時代から、日本に対する強硬姿勢を主張して政府の尻を叩いてきた人物だ。
そんなイ・ゲホ議員の「喪失感」を朝鮮日報(8月29日付)「韓国与党・イ・ゲホ議員『親日派・土着倭寇、安倍氏辞任後の喪失感をどう回復するのか』」が、こう伝えている。
「共に民主党のイ・ゲホ議員は8月28日、日本の安倍首相が辞意を表明したことを受けて、『我が国の親日派と土着倭寇たちは安倍首相が退いた後、その喪失感をどのように回復しなければならないのだろうか』と述べた。イ・ゲホ議員は同日、フェイスブックに『安倍首相の健康状態はかなり悪いそうだ。チラシ(うわさなどを集めた情報誌・メディア)を中心に具体的な病名まで飛び交っているので、深刻な状態のようだ』として、上記の文章を投稿した」
倭寇は13世紀から16世紀にかけて朝鮮半島や中国大陸の沿岸地域を荒らし回った日本の海賊のこと。「土着倭寇」とは現在、反日運動が盛んな韓国で、わずかでも日本に理解を示す者を呼ぶ蔑称である。イ・ゲホ議員のフェイスブックへの投稿は、「安倍首相の退陣で、韓国内に巣食う親日派はさぞ意気消沈していることだろう」という皮肉のように見えるが、じつは違う。朝鮮日報によると、イ・ゲホ議員はそのあとにこう書き込んでいるからだ。
「韓日葛藤を煽った安倍首相が去った。(退陣表明をする安倍首相を)見つめる心情、本当に万感の思いが行き交う。これまでかなり韓国の国民と政府を苦しめてきたからだ」
そして、最後にこう結んだのだった。
「一日も早く健康状態を回復して全快するよう心から願う。本心だ」
これは2016年の当選以来、「安倍憎し」のあまり、「反日」を政治活動の生きがいとしてきたイ・ゲホ議員自身の「喪失感」以外の何物でもないだろう。