日銀は「決して明言しないが」金融緩和策の失敗を認めている
次期政権に、アベノミクスのもとで急速に進んだ日本銀行の金融緩和策の是正を強く求めるのは、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。8月31日付のリポート「安倍首相辞任で金融政策は変わるか」の中で、「積極金融緩和はさまざまな点で大きな弊害を残した」と強調し、次のように説明している。
「安倍政権は当初、日本銀行の異例の積極金融緩和策を、デフレ克服のために用いる最大の武器、と位置付けた。しかし、積極緩和策は当初に期待した効果を発揮することはなかった。反面、大きな副作用、潜在的なリスクを累積することになった。それは、金融機関の収益環境悪化、金融市場の機能低下、財政規律の緩み、日本銀行の財務悪化を通じた独立性低下のリスクなどだ。これは巨額の政府債務と並んで、大きな『負の遺産』となった」
木内登英氏は、安倍首相の辞任が、日本銀行の金融政策を正常に転換する大きなチャンスだと強調する。実は、日本銀行は「決して明言することはないが」異例の金融緩和策は効果がなかったことを認め、すでに政策の転換を図ってきたというのだ。こう語る。
「日本銀行が政策効果に期待して、いわば『攻めの政策』を実施したのは、2016年1月に発表したマイナス金利政策までと筆者は考える。マイナス金利政策に対する金融市場や国民の悪い反応などを受け、その後日本銀行は、異例の金融政策がもたらすリスクを管理・軽減していく政策、『守りの政策』に転換していった。金融機関の収益を損ねる長期・超長期の金利低下に歯止めをかけ、また流動性低下のリスクが高まっていた国債の買入れ額を減らすことに主眼が置かれていた、と考えられる」
ただし、日本銀行は明確に正常化策に舵を切れないのには3つの理由があったという。第1は、政策の失敗を認めることで日本銀行の信頼を損ねたくないこと。第2は、日本銀行が正常化方向に金融政策を転換したと市場が受け止めた際に生じ得る、急速な円高進行のリスクを警戒してのこと。そして第3が、安倍首相の大きな存在感だった。
安倍首相は、「考えを同じくする人」として財務省出身の黒田東彦氏を日本銀行総裁に選んだ人だ。金融政策の転換がアベノミクスの失敗であるとして安倍首相が批判にさらされる可能性に、日本銀行は最大限に配慮することを強いられてきたのではないか。だから、安倍首相の辞任は事実上の正常化をさらに進めることを助けるのではないかというわけだ。
そして、木内登英氏はこう結んでいる。
「安倍首相の辞任によって、日本銀行は次期総裁が日本銀行出身者から選ばれることを期待していることだろう。安倍首相の辞任は、多少長い目で見れば、日本銀行が金融政策を修正し、また、その自主性や政策の自由度を取り戻していく大きなきっかけになり得る、と言えるのではないか」
(福田和郎)