少子高齢化で生産年齢人口が減少するなか、ここ数年は人手不足によって倒産に追い込まれる企業が後を絶たない。人手不足の解消が企業経営において重要な課題としてあげられている一方で、新型コロナウイルスの影響で景気が厳しさを増しており、採用の見送りや人員削減、失業者の増加などの雇用状況の注目度も増している。
企業信用情報の帝国データバンクによると、2020年7月時点で正社員が不足している企業は30.4%と、前年同月と比べて18.1ポイント減ったことがわかった。7月としては4年ぶりの30%台で、人手不足感は大幅に後退している。8月26日の発表。
教育サービスとスーパーになお強い人手不足感
調査によると、企業に現在(7月時点)の従業員の過不足状況(「該当なし/無回答」を除く)を聞いたところ、正社員が「不足」していると回答した企業は30.4%だった=左図参照。人手が「適正」と回答した企業は46.8%で、前年同月と比べて4.6 ポイント増加。半数近くの企業が「人手は適正」と感じている。
人手が「不足」していると回答した企業を業種別にみると、「建設」が最も高く51.9%(前年同月比15.6ポイント減)で、唯一 50%を上回った。次いで、「メンテナンス・警備・検査」の48.1%(20.3ポイント減)、「教育サービス」が48.0%(3.2ポイント増)、「農・林・水産」が47.1%(17.8ポイント減)など、 7業種が4割台で続いた。
上位となった10業種中で8業種は人手不足感が減少しているものの、「教育サービス」とスーパーマーケットを含む「各種商品小売」の2業種では人手不足の割合が増加した。
教育サービスでは、生徒の募集が難しいとの声が多数を占めるなかで、「新型コロナウイルスの影響で、授業などの日程が大幅に狂い、その調整に翻弄される状態が続いている」(専修学校、東京都)といった声もあったという。
その一方で、「過剰」と回答した企業は22.9%。前年同月と比べて13.6ポイント増え、企業の過不足感は大きく変化していることがうかがえる。
企業の規模別にみると、「大企業」(36.9%)は前年同月比 22.4 ポイント減少となり、全体より減少幅が大きい。「中小企業」は28.9%(17.0ポイント減)、「小規模企業」は30.3%(11.8ポイント減)となり、いずれも10ポイント以上減少した。中小企業や小規模企業の人手不足感はぬぐえない。
コロナ禍の4月以降の人手不足、30%前後で推移
人手不足の状況を非正社員でみると、企業の16.6%が「不足」(「該当なし/無回答」を除く)していると回答。前年同月と比べて13.2ポイント減り、2013年2月(16.6%)の水準まで減少した。
「適正」は 62.2%(前年同月比0.4ポイント減)で、ほぼ横バイとなった一方で、「過剰」は21.2%(13.5ポイント増)となり 大きく増加している。
業種別にみると、スーパーマーケットを含む「各種商品小売」が47.6%で最も高かった。次いで、「教育サービス」の43.5%(7.8ポイント増)が続き、正社員と同様に増加している。「家具類小売」も40.0%(5.5ポイント減)と40%台。また、「飲食店」(38.6%、41.4 ポイント減)や「飲食料品小売」(37.1%、26.5ポイント減)、「メンテナンス・警備・検査」(36.7%、18.1ポイント減)、「医薬品・日用雑貨品小売」(33.3%、14.5ポイント減)、「娯楽サービス」(33.3%、27.8ポイント減)などが 30%を超えていた。
これまで人手不足の割合が 1位で推移してきた「飲食店」は、今年1月時点の76.9%から、緊急事態宣言が発出された4月に大きく減少して16.4%となり、この間 60.5ポイントの急減となった。緊急事態宣言の解除後は少しずつ客足が戻ったこともあり、7月は51業種中4番目に人手不足感が高まった。
新型コロナウイルスの影響で人手不足感が大きく後退した一方で、人手が「過剰」としている企業の割合は増えている。業種別にみると、「旅館・ホテル」が正社員・非正社員ともにトップで、「飲食店」も上位。また自動車需要の落ち込みで、「輸送用機械・器具製造」も 人手が過剰な割合が正社員、非正社員とも50%前後に増加した。
人手不足の割合を月次の推移でみると、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で緊急事態宣言が発出され、経済活動が停滞した4月に、正社員の人手不足感は大幅に後退した。緊急事態宣言が続いた5月もさらに減少。緊急事態宣言の全面解除を経て、6月以降も3 割前後で推移している=左図参照。
非正社員も、4月以降はほぼ横バイが続いている。業種による差はみられるものの、
「営業案件が減り、人手が余ってきている」(労働者派遣、大阪府)
といった声がある。
帝国データバンクは、「新型コロナウイルスの影響で、50%前後で推移していた人手不足の割合は30%まで減少した。しかし、企業からは『どの程度まで業務量が回復するかわからないが、潜在的にある人手不足は解決していない』(塗装工事、大阪府)といった声があり、新型コロナウイルスが収束に近づき業務量が増加する過程で、再び人手不足に陥るケースも想定される」とみている。
なお、調査は2020年7月16日~31日に実施。対象は2万3680社で、有効回答数は1万1732社(回答率49.5%)だった。雇用の過不足状況に関する調査は2006年5月から毎月実施している。