現代は「ストレス社会」「正解のない時代」などとよく言われますが、今がこれまでと大きく違うのは、私たちをとりまく情報量の多さです。情報にアクセスするのはカンタンな一方、多すぎて処理しきれません。「考えすぎてしまう理由」も、ここに大きな要因があります。
本来であればシンプルなことも、必要以上に複雑に考えてしまうことがあるのです。
最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方(堀田秀吾著)サンクチュアリ出版
笑いの効果を検証したオズワルドの研究
笑顔もそうなのですが、「笑う」というのはさまざまな効果をもたらすことが世界中で報告されています。一例として、イギリスのウォーリック大学のオズワルドらの研究を紹介します。
この研究は4つの実験からなり、一つめの実験では参加者をA「コメディー映像を見るグループ」と、B「見ないグループ」の2つのグループに分けました。
そして、5つの2ケタの数字の合計を求めるという作業を10分間行いました。
この結果、Aの映像を見たグループのほうが、パフォーマンスが高くなるという結果になりました。
次に、二つめです。一つめと同じように「コメディーの映像」を見せて、作業してもらいましたが、この中でも「幸福感が強い人」ほど、より高いパフォーマンスを発揮するということがわかりました。
三つめでは、チョコレートやフルーツや飲みものがふるまわれるグループとそうでないグループによる作業が行われました。結果は、食べもの、飲みものがふるまわれたグループのほうがパフォーマンスがよくなりました。
四つめの実験では、「最近起こったつらい出来事」についてアンケートを記入してから作業するグループと、アンケートなしのグループに分けました。この結果、アンケートを記入したグループのパフォーマンスのほうが悪かったのです。
この結果から言えることは、なんでしょうか――。
著者の堀田秀吾さんは、
「この実験から言えることは『幸福感の強い人はパフォーマンスがいい』ということです。最初の実験でコメディー映像を見た人のパフォーマンスがよかったのは、コメディー映像を見たことで幸福感を得られたと考えられます。幸福感というとイメージしにくいかもしれませんが、さらにシンプルに言うと『気分がいい状態』ということです。脳を喜ばせることが重要なのです。その方法は人によってさまざまだと思いますが、『笑いの映像』を見るというのはデメリットがなく、誰でも実践しやすいと思います」
と言います。
「おもしろい映像」を使った別の事例
ロマリンダ大学のパークらの研究で、この実験では1時間ほどのおもしろい映像を参加者たちに見てもらいました。その前後と12時間後の血液をとり、笑うことが身体にどんな関係があるのか、調べたというものです。
この結果、おもしろい映像を見ると、血液中のさまざまな成分がポジティブな反応を示すことがわかりました。「免疫力がアップした」というのです。
「興味深いのは、視聴から12時間後でも免疫力が上がっている、という結果になったことです。笑いの効果は持続性があるようなのです。考えてみると、古代から『喜劇』はありました。日本でも能楽のもとである『猿楽』はものまねで構成される喜劇です。どんな過酷な時代も、笑うという手段を通してストレスを緩和させ、それぞれの時代を上手に乗り越えてきたのではないでしょうか」
と、堀田さん。
まじめに何かに取り組むことは大切です。しかしバカバカしいことで笑うのも必要だと、これらの研究結果は示唆しています。パフォーマンスをアップさせるためにも、大笑いしてガス抜きをする必要性がありそうです。
本書の著者は、明治大学の堀田秀吾教授。世界中の脳科学、心理学、医学などさまざまな研究結果から、最適な行動をとる方法が紹介されています。(尾藤克之)