消費税減税も効果薄? 老舗百貨店が大量閉店、雇用維持を求め「マネキン」が座り込み(神木桃子)

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   ドイツでは2020年7月1日から、日本の消費税にあたる付加価値税の税率引き下げが始まっています。標準税率は19%から16%へ、食料品などに適用される軽減税率は7%から5%へ、12月末までの限定的な引き下げとなります。

   開始直後は、

「ドラッグストアで買いだめする」
「せっかくだから家具を買う」

という話を聞く一方、

「数パーセントの違いではあまり変わらない」

といった声も聞こえてきました。

   わたし自身は、これを機にと買ったのは子供用のベッドくらいですが、ふだんの買い物でも「減税だから......」という心理は少なからず働いています。景気回復の大きな一手になるのではと考えていたのですが、現状ではそうでもないようです。

  • 百貨店グループのガレリア・カールシュタット・カウフホーフは大量閉店を決定(筆者撮影)
    百貨店グループのガレリア・カールシュタット・カウフホーフは大量閉店を決定(筆者撮影)
  • 百貨店グループのガレリア・カールシュタット・カウフホーフは大量閉店を決定(筆者撮影)

消費税減税が物価上昇を抑制?

   ドイツ連邦統計局(Destatis)が8月13日に発表した7月の消費者物価指数は、前年同月比で0.1%のマイナス。また、前月の6月と比べても0.5%のマイナス。統計局は、物価の動向は多くの要因に依存しているとしつつも、付加価値税の減税によって抑制されていると指摘しています。

ドイツ統計局(Destatis)2020年8月13日付プレスリリースより筆者作成
ドイツ統計局(Destatis)2020年8月13日付プレスリリースより筆者作成

   ドイツ連邦財務省の試算では、今回の付加価値税の減税措置で196億ユーロ(約2兆3520億円/1ユーロ120円換算)の税収減になるとされています。これは2019年の付加価値税による税収のおよそ8%に相当します。金額で見るとインパクトがあるだけに、消費者物価がマイナスを示したことは意外な結果でした。

   しかし、実際に街中を歩いてみると、減税に浮かれているような雰囲気をあまり感じないことに気づかされます。むしろ、コロナ危機によって厳しい経済状況が続いていることを目の当たりにするほうが多いかもしれません。

老舗百貨店が閉店セール

カールシュタットのショーウィンドウは閉店セール一色(筆者撮影)
カールシュタットのショーウィンドウは閉店セール一色(筆者撮影)

   それは先日、デュッセルドルフの中心部へ買い物に出かけたときのことです。日本人街と呼ばれるエリアからほど近いシャドウ通りには、古くから親しまれている百貨店がふたつあります。ひとつはガレリア・カウフホーフ(Galeria Kaufhof)、そしてもうひとつはカールシュタット(Karstadt)。どちらもドイツ人なら誰でも知っていると言えるほどの老舗百貨店です。

   元々はライバル同士でしたが、2019年に経営統合し、ドイツ最大の百貨店グループ、ガレリア・カールシュタット・カウフホーフ(Galeria Karstadt Kaufhof)となっています。

   セール品でも物色しようと思っていたのですが、目に飛び込んできたのはショーウィンドウに貼られた「この店舗を閉めます」、「全品売り尽くし」というポスター。それが通りをはさんで立ち並ぶどちらの店舗にも貼られているのです。

   オンラインショップとの激しい競争にさられている百貨店業界。コロナ危機による売り上げ不振がさらなる追い討ちとなり、ガレリア・カールシュタット・カウフホーフはついに経営破たん。現在、破産手続きを進めています。

   その一環として、6月中旬に発表された事業再編計画によって、ドイツ国内172店舗のうち、62店舗の閉鎖が決定しました(8月に閉鎖対象は50店舗へ削減)。

カールシュタット正面玄関の前に置かれたマネキン。後ろのガラス戸には従業員一人ひとりからのメッセージが貼られている(筆者撮影)
カールシュタット正面玄関の前に置かれたマネキン。後ろのガラス戸には従業員一人ひとりからのメッセージが貼られている(筆者撮影)

   この閉鎖対象に、このシャドウ通りの2店舗も含まれていたのです。カールシュタットの正面玄関に向かうと、マネキンが2台、座った姿勢で置かれています。近寄ってみると、どちらも首からプラカードを下げており、それぞれ、このような文章が書かれていました。

「私はカールシュタットの従業員です。2020年11月1日から失業者となります」
「2020年10月31日をもって扉が永遠に閉ざされてしまうのであれば、私たちは座り込みをします」

   これは閉鎖に抗議する従業員が設置したもので、どちらのプラカードにも、お客に向けて次のようなメッセージがつづられていました。

「どうかレジで署名をして私を助けてください。それかBerliner Arzteversorgung(建屋のオーナー)に家賃を下げるようメールしてください。それによってシャドウ通りにある私たちのカールシュタットは維持されます」

   私がこのマネキンの写真を撮っていると、カールシュタットの従業員の男性が声をかけてきました。彼は北ドイツの店舗で働いているそうで、おそらくヘルプとして来ているのでしょう。会社の方針に納得がいっておらず、

「この店には50人もの従業員がいるんだ。ひどい話だよ」

とこぼしていました。

   わたしもカールシュタットを利用していたひとり。自分ができるせめてものことはしようと、入口にある署名用紙に名前を記してきました。しかし、店内は売り尽くしセール中だというのにお客の入りはまばら。なんともいたたまれない気持ちになりながら、家路につきました。(神木桃子)

高橋 萌(たかはし・めぐみ)
高橋 萌(たかはし・めぐみ)
ドイツ在住ライター
2007年ドイツへ渡り、ドイツ国際平和村で1年間の住み込みボランティア。その後、現地発行の日本語フリーペーパー「ドイツニュースダイジェスト」に勤めた。元編集長。ドイツ大使館ブログでは「ドイツ・ワークスタイル研究室」を担当。サッカー・ブンデスリーガ大好き。日本人夫とバイリンガル育児に奮闘中。
Twitter: @imim5636
神木桃子(こうぎ・ももこ)
神木桃子(こうぎ・ももこ)
ドイツ在住ライター
島根県生まれ、東京・多摩育ち。物事の成り立ちを知りたいと大学では有機化学を専攻。小売業界でのオーガニック製品や地域産品のバイヤーを経て、2014年よりドイツに移住。「もっと心地よくグリーンな暮らしへ」をテーマに、ドイツのマーケット情報やトレンド、ライフスタイルについて執筆活動中。3歳になる娘と日本人の夫との3人暮らし。
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