「8年間で半年しか働かない私って、ずるいのでしょうか?」
会社の産休・育休制度を利用して2人の子どもを産んだうえ、今度は休業制度を使って夫の海外赴任に付いて行こうとしている女性がいる。
彼女が働いたのはトータル約8年間の在籍のうち、わずか半年間だけだ。そんな彼女に同期の子持ちママが言った。
「子を産む後輩女性の迷惑だよ。制度を利用するのは悪くないけど、ずるいよ」
グサリと刺さる言葉だった。女性はずるいのだろうか。女性の働き方に詳しい専門家に聞いた。
「休む制度があるのに反感を買うとしたら制度が問題だ」
J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では、女性の働き方に詳しい、主婦に特化した就労支援サービスを展開するビースタイルグループの調査機関「しゅふJOB総研」の川上敬太郎所長に、今回の「8年間で半年しか働かない私って、ずるい?」論争について意見を求めた。
――今回の論争を読んで、率直にどのような感想を持たれましたか?
川上敬太郎さん「育休取得中に次の子を妊娠して、連続して何年も会社を休むことになった結果、社内でさまざまな軋轢(あつれき)を生んでしまうという事例はこれまでにもありました。投稿者さんと同様の悩みを持つ方は、日本中にまだまだたくさんいるのではないかと感じました」
――軋轢といいますと、どのようなことでしょう。産休・育休の取得や、夫の海外赴任に休職制度をとって付いていくケースについて、調査したことはありますか。
川上さん「海外赴任についてはありませんが、仕事と家庭の両立を希望する働く女性に、育児休業期間を1年から2年に延長することについての賛否を調査したことがあります。育休を2年に延長することに賛成する人が過半数でしたが、反対する人たちからは『育休をとって、戻ってきたら1年もしないうちにまた育休を取った人がいて、そのフォローで大変苦労した』『その間、必ず誰かに迷惑がかかっている』『そんなに休むのなら退職するべき』といった辛辣な声が聞かれました」
――投稿者に賛成、共感する意見の多くは「女性は妊娠・出産・育児・介護...と担わされる分野が多いのだから、会社に制度があるなら大いに活用するべきだ」という声に代表されます。こうした意見については、どう思いますか。
川上さん「投稿者さんの立場に立った時、会社で用意されている制度をルール通りに使用しているだけということになるのだと思います。もし、制度はあるのに使用しづらい、あるいは実質的に使用できないことになってしまうと、それはそれで制度そのものに問題があることになると考えます」
――なるほど。投稿者は会社の制度を利用しているだけだから問題ないというわけですね。しかし、多くの人は「制度を利用するばかりで、他人に迷惑をかけることに関して周囲への気遣いが足りない」と批判的です。
川上さん「投稿者さんが実際に気遣いをしていないのかどうかは別として、少なくとも投稿を見た印象として『気遣いが足りない』と感じた人が多いという事実は認識しておく必要があるのだと思います。
同期の方が『ずるい』と感じているのであれば、同様の感情を抱いている同僚が他にもいる可能性は十分にありえます。その感情は、将来復帰してチームで仕事していくときにマイナスです。反感を買ってしまっている以上、今から対策を立てなければなりません。休業中の振る舞いにも配慮して反感を買わないようにすることが大切です」
「休業中にできる限りのキャリアの準備をしておこう」
――批判の中で多いのは8年間もブランクを負うことに対してです。「働くために会社に入ったのではないのか?」「浦島太郎になるよ」「使い物にならなくなるよ」と心配する人が多いです。
川上さん「そうした批判をする方々の心情はわかります。しかし、休むことが問題なのか、復帰後に十分な働きが期待できないことが問題なのかは整理しておく必要があります。社員が制度をルール通りに使って休んでいるのに仕事に支障が出てしまうとしたら、それは会社側の制度設計および業務設計が不十分だということになると思います。仕組みを整備して休んでも支障がないようにしておかなければ、社員は安心して休むことができません。
一方で、制度も業務体制もしっかり整っているのに、休む社員に対して感情的な反発が出てしまうようであれば、社員全体の意識改革が必要になってきます。実質的な支障がないにもかかわらず反感を買ってしまうような環境では、社員は安心して休むことはできません。休む社員も、働く社員も、すべての社員が気持ちよく働ける環境を作ることが、結果として会社全体の業績向上にも寄与することになるはずだと考えます。
また、復帰後に十分な働きができるかどうかが問題なのであれば、長期間休業することになっても確実に戦力として復帰できるよう、会社側で休業期間中にフォローアップする仕組みを構築するなどの対策が必要だと考えます」
――なるほど。投稿者個人を批判するのではなく、会社の制度のあり方を考え直すべきだというわけですね。ところで、海外赴任する夫に付いていくことは、働く女性の地位を下げることになる、逆の立場だったら夫は妻についていくだろうか、という意見もあります。この意見についてはどう思いますか。
川上さん「現実問題として、妻側がキャリアをあきらめて、夫側のキャリアを優先するご家庭が多いという傾向はあると思います。いつも妻側があきらめなければならない状況を変えたいと考えている人にとっては受け入れ難いことだと思います。しかし、夫婦どちらの仕事を優先するかは、ご家庭ごとに考え方が異なっていいはずです。投稿者さん自身も納得して夫の海外赴任についていくのであれば、その判断は尊重されるべきだと考えます」
――海外赴任に付いていくべきかどうか。あるいは今後、投稿者は働き続けるうえで何をすべきか。川上さんなら投稿者にどうアドバイスしますか。
川上さん「海外赴任に付いていくべきか否かは、投稿者さんご夫婦の考えが尊重されるべきです。投稿者さんがいずれ復帰して働き続ける気持ちがあるのなら、少なくとも『ずるい』と思っている同期がいる状況を認識した上で対策を立てておく必要があります。復帰後にしっかりと仕事で認めてもらえるように、休業中にできる限りのキャリアの準備をしておくことをお勧めします」
(福田和郎)