ユーロドルが節目の1.1500ドルを越え、前週(2020年7月27日週)にはついに、1ユーロ=1.19ドル台にタッチしました。これまで相場らしい相場がなかっただけに、目覚ましい動きに見えます。
ユーロドルの上昇はEU(欧州連合)が、欧州復興基金の設立に合意してからです。7月17~18日の日程で開かれた臨時のEU首脳会議でしたが、「倹約4か国」の強硬な反対で合意に至らず、結局日程を3日間も延長し、7月21日ついに合意に至りました。
欧州復興基金設立の合意は歴史的な一歩
今回の欧州復興基金設立の合意は、財政統合に向けた第一歩とも言え、歴史的に大きな意味を持ちます。そしてEUの名義で巨額の債券を発行し(7500億ユーロ、約93兆円)、償還していくことになります。どの程度の年限の発行になるか、わかりませんが、その期間ユーロは存続するとも言えます。
笑い話ではなく、これまで「もしかしたら、いつかユーロはなくなるかもしれない」という恐れがありました。
過去には欧州危機もあり、通貨統合の「外」とは言え、英国はEUを離脱します。投資家の懸念は杞憂とも言い切れないものでした。しかし、復興基金によりEU名義の長い年限の債券が発行されるとなれば、その間、ユーロの存続は確からしいものになります。
復興基金の成立でユーロ買い、これを多くのプレーヤーが狙っていました。今年の高値1.1495ドルを突破し、1.15台に乗せたことで、2番底が完成しました。そして、2008年の高値1ユーロ=1.6038ドルからのトレンドラインも1.18前後に来ていましたが、それも突破しました。
過去12年の下降トレンドが終わったとすれば、意外に強い上昇相場になるかもしれません。
イタリアが中国の「一帯一路」に参加するかも?
欧州復興基金が一つの触媒にはなりましたが、今回のドル下げは、基本的に以下の3つに由来すると思われます。
(1) 欧州復興基金の成立で欧州投資に安心感が出てきた。
(2) 米国の超金融緩和がタイムラグをおいて効いてきた。
(3) 米中対立が激しくなり、中国や他の主要国がドルから資金シフトを始めている。
こんなところでしょうか。
(1)については、前述のとおりです。
(2)は、米国の金融緩和は前代未聞のレベルにまで低下しています。インフレ率はそれなりにありますので、10年でも実質金利はマイナス1%に達しようかとしています。
つまり、ドルを持っていると価値が減価していきます。それを避けるためには、なにかに変えなければなりません。
米国は短期金利のみならず、米国の長期金利も今後、日本のJGB(国債)と同様、驚くレベルに落ちていく可能性はあります。
問題は(3)です。陰の主役は「中国」なのです。中国の「一帯一路」計画に、イタリアは欧州で初めて参加を表明しています。日本では、報道があまりなされていないですが、イタリアは中国に急接近しているのです。
今回はドイツが頑張って、延長に延長を重ねた末に欧州復興基金が成立しましたが、そうしないとイタリアはEUから離れて中国についてしまう可能性がありました。ドイツのメルケル首相は、そうした事態を想定し、しっかり予防したわけです。
さて、ユーロドルはどこまで反発できるのでしょうか――。正確な答えは誰も持っていませんが、1ユーロ=1.1500ドルをネックラインに、ダブルボトムの可能性を考えると、1.23ドル程度はラクに行くことになりそうです。究極的には、1.3ドル方向でしょう。(志摩力男)