作者・池井戸潤氏のメッセージ ドラマ「半沢直樹」の「恩返し」が示唆すること(大関暁夫)

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   7年ぶりに帰ってきた銀行を舞台としたテレビドラマ「半沢直樹」が、出足好調なようです。前回シリーズは最終回の視聴率40%台という驚異的な数字をたたき出し、長年その続編制作が待たれていたことで、半沢ファンの渇望感が盛り上がっていたということでしょうか。

   前回シリーズは、知られざる銀行内部のドロドロした実情を描き出したことと、勧善懲悪的なストーリーづくりが大いに受けたという感じだったのですが、今回も基本路線は同じ。どうやら「二匹目のドジョウ」は、確実にいたようです。

  • 7年ぶりの復活!ドラマ「半沢直樹」は「恩返し」がテーマ(TBS日曜劇場「半沢直樹」ホームページから)
    7年ぶりの復活!ドラマ「半沢直樹」は「恩返し」がテーマ(TBS日曜劇場「半沢直樹」ホームページから)
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「決めゼリフ」が盛り上げる勧善懲悪の「時代劇」

   ドラマの中身から申し上げれば、物語のベースにある銀行と証券子会社での客の奪い合いや親会社による子会社いじめの体質は、元銀行勤務者からみれば明らかな時代遅れ観は否めません。

   しかし、そこは所詮フィクションであり、目くじらをたてても仕方なく、10年前の銀行界を舞台とした近「時代劇」であると割り切って、「水戸黄門」や「遠山の金さん」を観るのと同じノリで楽しめばいい、と思えます。現実に、この番組を楽しく見ている人の多くは、そんなノリで観ているのではないかと思うところでもあります。

   「時代劇」と申し上げたのは、共通項として勧善懲悪を基本とした単純なストーリー仕立てがあり、「水戸黄門」「遠山の金さん」ではクライマックスに、黄門様の「皆の者頭が高い。天下の副将軍水戸光圀公なるぞ!」、金さんの「この桜吹雪に見覚えがねぇとは言わせねぇぞ」の決めゼリフが象徴的に使われます。

   「半沢直樹」では、流行語にもなった、「やられたらやり返す。倍返しだ!」というセリフがそれにあたります。そんな決めゼリフもまた、視聴率アップにひと役買っているのではないかと思うのです。

「施されたら施し返す。恩返しです」!

   ところで、今回のシリーズを前に半沢直樹を演じる主演の堺雅人さんが、スポーツ紙のインタビューでこんなことを言っていたようです。「今作のポイントのひとつは『恩返し』です。ある人のセリフに出てくるので注目してください」と。さっそく、放送初回に前回シリーズで半沢の最大のライバル役となった香川照之さん演じる大和田専務の頭取に対する言葉として、「施されたら施し返す。恩返しです」というセリフが登場しました。そして、第3回には主人公の半沢直樹が、部下に対してこんなことを言っています。

「いいか忘れるな。大事なのは感謝と恩返しだ。これまでの出会いと出来事に感謝をし、その恩返しのつもりで仕事をする。そうすれば、必ず明るい未来が拓けるはずだ」

   クライマックス場面での主人公のセリフに登場するに至って、前回の「倍返し」のように流行語になるか否かは別としても、キーワード「恩返し」は確実に視聴者に刷り込まれつつあるように思います。

   元銀行員の私などは主人公のこの言葉を聞いて、金融機関と「恩返し」の浅からぬ関わりを思い起こさせられるエピソードを思い出していました。

   1990年代後半、銀行界が不良債権問題に端を発し金融危機に陥った際に、私の勤務先銀行も預金の流出が止まらず、このままでは最悪経営破たん、少なくとも大手行への吸収合併は免れ得ない、そんな澱んだ空気に包まれていました。

   バブル期に2000円を超えていた株価はすでに200円台前半。200円を割り込んだら危険水域といわれ、株価維持に向け取引先への持ち株買い増しのお願いが、私が所属していた営業管理部門の大きな課題になっていました。

   そんな折に、銀行の地元から遠く離れた北関東の優良取引先企業M社が、銀行の困窮状態を聞きつけ、数度にわたって株を買い支えてくれたのでした。もしこの大量買い支えがなければ株価は200円を割り込み、他の破たん金融機関と同じく一気に売り相場に巻き込まれ実質破たん状態に追い込まれていたのではないかと、今さらながらに背筋が寒くなる思いがします。

マイナス金利やフィンテックが襲う、未曽有の銀行危機

   そんな当時の私の関心事は、なぜM社が瀕死の銀行株を買い支えてくれたのかでした。万が一銀行が破綻すれば、買い増した株はすべて紙切れになってしまうリスクすらありました。一般的な銀行と取引先の関係では、到底考えられない行動であったと思ったのです。

   その数年後に、私は縁あってM社の取引店に異動になりました。当時すでに引退していた元M社ナンバー2で株買い支え時に財務担当だったSさんを訪ね、長年の疑問を尋ねてみました。私の質問に対してSさんは、「恩返しだよ」というひと言で答えたのです。

「オイルショックの影響で業績がガタガタになったとき、どこの取引銀行もピタッと融資が止まってしまってね。このままじゃ月末を越せずに倒産するぞ、と社内は大騒ぎ。財務担当の私は青くなって、何度も複数の取引銀行にお願いしたもののどこもダメ。倒産の覚悟をしかけた時、融資実績のなかったおたくの銀行から審査結果の連絡があって、『御社のまじめな業務姿勢を信じます』と緊急融資を応諾してくれ、うちは九死に一生を得たのよ。本当にありがたかった。そんな恩義があれば、銀行が困った時に「恩返し」は当たり前だがね」

   この話には、少なからず感動させられました。取引先が銀行の融資に恩義を感じて銀行が困った時に「恩返し」をしてくれるというのは、ある意味で銀行冥利に尽きる話ではないですか。こんなことがあるからこそ、企業の御手伝いというという仕事はやりがいがあるのだと思ったものです。

   しかし同時に、その逆すなわち銀行は銀行を盛り立ててくれた企業に果たしてちゃんと「恩返し」しているのだろうか、と疑問が頭をもたげてもきました。支店長はじめ銀行員は転勤族であるがゆえ、取引先への「恩義」がちゃんと引き継がれずに礼を失しているのではないのか――。元銀行員としては、今も気になるところなのです。

   「半沢直樹」の前作から7年を経て、マイナス金利やフィンテックなどの進展で、今、銀行は未曽有の苦境にあります。この時期に続編として放映されている今作のキーワード「恩返し」は、元銀行員である作者、池井戸潤氏から銀行へのサバイバル・メソッドへの示唆なのかもしれません。今後ドラマではどんな「恩返し」が見られるのか、注目したいと思います。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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