マイナス金利やフィンテックが襲う、未曽有の銀行危機
そんな当時の私の関心事は、なぜM社が瀕死の銀行株を買い支えてくれたのかでした。万が一銀行が破綻すれば、買い増した株はすべて紙切れになってしまうリスクすらありました。一般的な銀行と取引先の関係では、到底考えられない行動であったと思ったのです。
その数年後に、私は縁あってM社の取引店に異動になりました。当時すでに引退していた元M社ナンバー2で株買い支え時に財務担当だったSさんを訪ね、長年の疑問を尋ねてみました。私の質問に対してSさんは、「恩返しだよ」というひと言で答えたのです。
「オイルショックの影響で業績がガタガタになったとき、どこの取引銀行もピタッと融資が止まってしまってね。このままじゃ月末を越せずに倒産するぞ、と社内は大騒ぎ。財務担当の私は青くなって、何度も複数の取引銀行にお願いしたもののどこもダメ。倒産の覚悟をしかけた時、融資実績のなかったおたくの銀行から審査結果の連絡があって、『御社のまじめな業務姿勢を信じます』と緊急融資を応諾してくれ、うちは九死に一生を得たのよ。本当にありがたかった。そんな恩義があれば、銀行が困った時に「恩返し」は当たり前だがね」
この話には、少なからず感動させられました。取引先が銀行の融資に恩義を感じて銀行が困った時に「恩返し」をしてくれるというのは、ある意味で銀行冥利に尽きる話ではないですか。こんなことがあるからこそ、企業の御手伝いというという仕事はやりがいがあるのだと思ったものです。
しかし同時に、その逆すなわち銀行は銀行を盛り立ててくれた企業に果たしてちゃんと「恩返し」しているのだろうか、と疑問が頭をもたげてもきました。支店長はじめ銀行員は転勤族であるがゆえ、取引先への「恩義」がちゃんと引き継がれずに礼を失しているのではないのか――。元銀行員としては、今も気になるところなのです。
「半沢直樹」の前作から7年を経て、マイナス金利やフィンテックなどの進展で、今、銀行は未曽有の苦境にあります。この時期に続編として放映されている今作のキーワード「恩返し」は、元銀行員である作者、池井戸潤氏から銀行へのサバイバル・メソッドへの示唆なのかもしれません。今後ドラマではどんな「恩返し」が見られるのか、注目したいと思います。(大関暁夫)