日本製品の不買運動がなかなか収まらない韓国で、「世界の王者」トヨタが苦戦を続けている。
「ノージャパン」運動のピーク時でさえ、値引きすることが少なかったトヨタが、プライドを捨てたかのような「大出血セール」を始めて、韓国の経済界を驚かせている。
トヨタに何が起こっているのか。韓国メディアを読み解くと――。
「事故で修理費が出たら新車と交換いたします」
トヨタといえば、2020年上半期(1~6月期)の世界の自動車販売台数が、子会社ダイハツと日野自動車を含めたグループ全体で416万台となり、独フォルクスワーゲン(VW)グループの389万台を抜き、上半期としては6年ぶりに世界首位に返り咲いたばかりだ。
また、2020年8月6日に発表した4~6月期決算では、純利益が前年同期比74.3%減となったものの、1588億円の黒字を確保した。新型コロナウイルスの打撃を受けて、他の大手がそろって巨額の赤字を出すなか、「底力」を見せつけた格好だ。
そんなトヨタでも、日本製品の不買運動が収まらない韓国では苦戦を強いられているようだ。
中央日報(2020年8月5日付)「不買運動で打撃のトヨタ、韓国で初めて『新車交換』プロモーション」が、プライドを捨てたかに見えるトヨタのなりふり構わない商戦を、こう伝える。
「トヨタが韓国市場で破格プロモーションに出た。韓国トヨタは8月4日、8月から新車を購入する顧客に事故で多額の修理費用が発生した際に、同じ種類の新車に交換する『新車交換プログラム』を実施すると明らかにした。伝統的に割引が少ないことで有名なブランドだが、昨年(2019年)から続いた日本製品不買運動などの影響で販売台数が減少したことに伴った決定だ」
交換の対象車種は、スポーツカーであるトヨタ86、GRスープラを除いた残り車種。購入後3年以内に他者による車対車の事故で、修理費用が車両価格の30%(工賃含む)を超えれば新車に交換する。ただし、運転者の過失が50%以下でなければならない。
また、カムリ・ハイブリッド、プリウスなど主力車種は韓国トヨタの金融プログラムである「トヨタファイナンシャル」を利用すると最大60か月無利子分割払いで購入できるサービスも始めた。このほか、7月から取得税・登録税の全額支援、エンジンオイル・フィルター永久無償交換、無償保証期間延長などの恩恵も提供している。
中央日報は、こう続ける。
「この新車交換プログラムは現代自動車グループが米国と韓国で実施、今年(2020年)からは中国でも始めて有名になった積極的プロモーションだ。現代自動車は『心変わり』による車種交換も可能だが、トヨタは事故の場合にだけ交換するという点が違いだ。輸入車業界では『割引が少ないことで有名なトヨタが破格なプロモーションを出した』と驚きの反応を見せている。60カ月無利子分割払いも破格だ。韓国では双竜自動車やフォード・コリアが限定的に実施したことがある。分割払い金融は輸入車企業の主要収益源のひとつのため、長期の無利子プログラムはそれだけ利潤が低くなるという意味だ」
トヨタにとって思い切った「大出血プロモーション」というわけだ。中央日報の取材に対し、韓国トヨタ関係者はこうコメントした。
「昨年以降(不買運動などで)市場環境が悪化したのに伴う決定だ。良い品質の自動車を韓国市場に出したいという意味だ」
韓国全土の洪水被害に素早く寄付を申し出たホンダ
韓国では日本自動車の苦戦が続いている。すでに日産自動車は今年5月に韓国からの撤退を決めている。韓国トヨタは今年3月の2019年度決算発表では売上が前年比33.4%に減り、営業利益も半分以下の51.4%に激減した。
ホンダコリアも昨年より営業利益が90.0%も減った。ただ韓国の輸入車業界筋では、顧客信頼度が高いトヨタと、オートバイの販売力が強いホンダは、日産のように韓国から撤退する可能性は少ないとみている。
そのホンダも必死に生き残りを目指している。韓国では現在、全土に台風による洪水被害が広がっているが、日本企業としていち早く寄付活動を始めた。
聯合ニュース(2020年8月10付)「ホンダコリア 集中豪雨の被災地に寄付」によると、ホンダコリアは8月10日、集中豪雨による被害の復旧と被災者支援のため、大韓赤十字社に1億ウォン(約890万円)を寄付したと発表した。
寄付金は冠水した被災地の住宅や施設の復旧、被災者のための救急用品や避難所の支援、カウンセリング、復旧現場での炊き出しなどに使われる。
(福田和郎)