「集中から分散へ」は歴史上初の転換
オンライン診療、オンライン授業、テレワーク、インターネット投票の実現・拡充は、分散型ネットワークの実現にも大きな影響がある。コロナ禍を経験したことで、人類は長年目指してきた中央集権型の仕組みから分散型ネットワークに移行するとみられるが、その動きをアシストするのはオンライン化や、インターネットの活用だからだ。
新型コロナウイルスの感染拡大でわかったのは、都市化の動きが人類に感染症への脆弱性をもたらしたということ。歴史的にみても天然痘やペスト、コレラの流行も都市化の副産物だった。そして、コロナショックをきっかけに、その歴史がレビューされ反省に転化。「『中央集権型システムの構築』『都市への集中』『密度の向上』『密閉』を目指してきた人類が、歴史上、初めて『分散型ネットワークへの移行』『地方への分散』『密度の低下』『解放』を目指す方向へと転換するかもしれない」と、著者はみる。
すでに都市部から地方へ移住しようする動きが表れてきており、ウェブ上では地方自治体や不動産情報会社、NPO法人などが移住相談のサイトを立ち上げている一方、企業のテレワークの定着化で「地方への分散」の動きは活発になっている。ポストコロナに備えて、こうした動きがさらに活発化するかどうかは、オンラインの整備とインターネットの利用増といった利便性の向上にかかっている。
著者は、日本限定のケースと断りながら、わが国のコロナショックの位置付けは、1923年の関東大震災以来の大きなターニングポイントになる可能性があると指摘する。というのも、関東大震災の後に都心から郊外へ移住する人が増加するという現象があり、これは当時、都市のターミナル駅と郊外を結ぶ鉄道が発達したことが寄与したためだ。
また、当時、東急電鉄が渋谷に、阪急電鉄が梅田に、南海電鉄が難波にデパートを作ったこともあり、震災をきっかけに人々のライフスタイルを大きく変えたという。
この震災の例にひそみ著者は、
「長年、お題目のように繰り返されてきた『ワーク・ライフ・バランス』が、新型コロナウイルスに背中を押される形で、ようやく実現に向かうのである」
と述べている。
「ポストコロナの経済学 8つの構造変化のなかで日本人はどう生きるべきか?」熊谷亮丸
日経BP
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