東証「市場を再編」基準の共通化で上場できる企業、できない企業!(鷲尾香一)

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   新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、本来は2020年3月に公表予定だった東京証券取引所の「市場再編に係る第一次制度改正事項」が7月29日に公表された。

   第一次制度改正事項の公表は遅れたものの、パブリックコメントを9月 11 日までとし、それを踏まえた制度改正を11月1日に実施。新市場への移行は2022年4月1日に実施するという従来スケジュールに変更はない。

   果たして、どの程度の企業が、東証第1部市場への駆け込み上場するのか――。

  • 東証が「市場を再編」上場は厳しくなる?
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市場第2部や東証マザーズから第1部への昇格は難しく

   7月29日に公表された主な改正点は、次の(1)~(5)のとおり。

(1)市場第1部への新規上場、1部指定・市場変更等基準の見直しと共通化
(2)市場第2部とJASDAQスタンダードの新規上場基準等の見直しと共通化
(3)東証マザーズの新規上場基準等の見直し
(4)JASDAQ グロースへの新規上場等の停止
(5)債務超過に関する上場廃止基準等の見直し

   この中で、もっとも影響が大きく、市場の関心事は(1)の市場第1部への新規上場、1部指定・市場変更等基準の見直しと共通化だ。

   市場第1部への新規上場・昇格に必要な基準は、以下のとおりとなっている。

・ 株主数=800人以上
・ 流通株式数=2万単位以上
・ 流通株式時価総額=100億円以上
・ 流通株式比率=35%以上
・ 時価総額=250億円以上
・ 経営成績=利益実績として最近2年間における経常利益の総額が25億円以上または売り上げ実績として最近1年間の売上高が100億円以上かつ上場日における時価総額が1000億円以上
・ 財政状態=純資産50億円以上

   従来は、東証市場第2部やマザーズから市場第1部に昇格する場合には、時価総額が40億円以上となっており、市場第1部への新規上場とJASDAQから市場第1部への昇格の場合は、時価総額が250億円以上と基準が違っていた。それが「250億円以上」に統一される。

   ただし、市場第2部や東証マザーズから市場第1部への昇格は、時価総額が40億円から250億円と大幅に引き上げられたことになり、市場第1部への昇格は難しくなった。

   このほかに、新規上場における株式の公募または売出しの規模が1000億円以上となる場合には、流通株式比率の35%という基準について、上場後5年以内に35%以上となる計画書を提出すれば、上場時までに10%以上あれば上場が可能となる。

東証第1部への「駆け込み」上場を果たす企業はどこだ!

   また、従来は赤字上場が難しかったが、今回の改正で「中長期的な企業価値の向上のための投資によって一時的に赤字を計上している場合には、当該投資の内容やそれを踏まえた企業全体の業績動向、今後の見通し等が勘案される」こととなった。

   これにより、スタートアップ後のベンチャー企業などでも、特にバイオ関連企業やIT関連企業では市場第1部への上場の道が拓けることとなる。

   さて、市場第2部とJASDAQスタンダード、東証マザーズの市場も簡単に触れておく。各市場への新規上場基準は、以下のとおり。

<市場第2部、JASDAQ スタンダードの新規上場基準>
・ 株主数=400人以上
・ 流通株式数=2000単位以上
・ 流通株式時価総額=10億円以上
・ 流通株式比率=25%以上
・ 経営成績=最近1年間における経常利益が1億円以上
・ 財政状態=純資産が黒字
<東証マザーズの新規上場基準>
・ 株主数=150人以上
・ 流通株式数=1000単位以上
・ 流通株式時価総額=5億円以上
・ 流通株式比率=25%以上

   市場第2部とJASDAQスタンダードでは、新規上場基準が統一された。加えて、市場第2部で適用されているコーポレートガバナンス・コードの全原則がJASDAQスタンダードでも適用されることとなった。また、東証マザーズでは上場基準に加え、リスク情報等の開示の適切性審査に「事業計画及び成長可能性に関する事項」が加わった。

   さて、東証の市場再編制度の改正は11月1日に実施される。このため、現在、市場第2部と東証マザーズに上場している企業は、10月末までに市場第1部への昇格を申請すれば、現在の時価総額40億円以上という基準が適用される。

   10月末まではすでに3か月を切っている。市場第1部への駆け込み上場が、どの程度の企業数になるのか――。コロナ禍で、業績悪化を余儀なくされるであろう企業が少なくないだけに、その数とどのような企業なのか、注目される。(鷲尾香一)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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