新型コロナウイルスの感染拡大が全国に広がるなか、お盆の期間中の帰省をめぐり、政府内の対立が表面化した。
新型コロナ対策の担当大臣である西村康稔経済産業相が「地方の高齢者に感染が拡大する心配がある。帰省は慎重に」と呼びかけると、菅義偉官房長官が「帰省の自粛を求めているわけではない」と真っ向から否定したのだ。
いったい、どうなっているのか。全国の知事の中には「自粛」を要請する人も多い。ネット民からも怒りの声があがっている。結局最後は2人とも「専門家の意見を聞いて...」
2020年8月4日付の主要メディアの報道を総合すると、「お盆の帰省」をめぐる西村康稔経済産業担当大臣と、菅義偉官房長官との「政府内バトル」はこのように起こった。
西村経産相は8月2日午後、記者団から「お盆の帰省は都道府県境をまたぐことになるが」と聞かれると、
「家族で田舎に行って高齢者と同じ環境で食事をすると、無症状の若い人や子どもから高齢者へと感染が広がる可能性があるので、十分注意しなければいけない。慎重に考えないといけないのではないか。今週にも政府の分科会を開き、帰省の際の注意点などについて専門家に意見を求めたい」
と答えたのだった。
これにムカッときたのが菅官房長官だった。翌8月3日午前の会見で、記者団から「西村大臣は県境をまたぐ帰省に慎重な意見を述べたが」と聞かれると、突き放すようにこう述べた。
「国として帰省の自粛を一律に求める考えはない。(西村大臣の発言は)帰省を制限するとかしないとか方向性を申し上げたものではない。帰省に関する注意事項について専門家のご意見を伺う旨を申し上げたものだ」
つまり、菅官房長官は、帰省はどんどんやっても構わないというのだ。2人の見解の食い違いについて改めて3日午後、記者団から聞かれた西村経産相は一歩も引かなかった。
「家族で帰省しておじいちゃん、おばあちゃんと会う、あるいは一緒に観光地へ行くとなると、また事情が変わってきます」
と改めて、高齢者は重症化するリスクが高いことを強調したうえで、
「週内に専門家の意見を聞いて、帰省のあり方について政府方針をお示したいと考えている」
と語ったのだった。
「独走」しすぎて官邸や他省庁の反発を買う西村氏
お盆の説明をめぐる政府内の説明のちぐはぐぶりについて、朝日新聞(8月4日付)「お盆帰省、政府説明ちぐはぐ 西村担当相『慎重に』 菅氏『一律に控えて、ではない』」がこう伝える。
「菅氏が帰省など人の移動の自粛に慎重なのは、自ら主導したGo Toトラベル事業との整合性が問われかねないとの事情がある。菅氏は観光業界が『瀕死の状態だ』として、支援策を継続する考えを改めて示した。ただ、高齢者への感染リスクを強調する西村氏と、経済への悪影響をさけることを重視する菅氏の言いぶりの違いは、国民の混乱につながりかねない。共産党の小池晃書記局長は『大臣によって言うことが違う。これは、危機管理において最悪だ』と批判した」
読売新聞(8月4日付)「菅氏『帰省自粛』求めず 政府分科会で議論へ」も同じ政権与党から説明に食い違いに批判が出ていることを報じた。
「公明党の山口代表は政府・与党連絡会議の席上、『感染拡大が地方にも波及し、歯止めがかからない状況に国民の不安が日増しに高まっている』と、国民へのわかりやすい説明を政府に求めた」
毎日新聞(8月4日付)「西村氏発信効果は コロナ担当相、連続会見100日」は、西村氏が8月4日まで土日祝日を含めて100日間、1日も休まず記者会見を続けていることを評価したうえで、その「独走」ぶりが首相官邸や他省庁の反発を買っている側面を伝えている。
「テレビ番組で、厚生労働省が所管する担当外の『雇用調整助成金』の上限引き上げに関し、『安倍晋三総理から指示が出ているので、その方向でやります』と明言。首相は翌日の会見で『助成金拡充』に触れたが、首相周辺は総理も『そんな指示したっけ?』と驚いていたと漏らした」
また、こんなエピソードも紹介している。
「政府の専門家会議を『分科会』に改組するとの発表の際に、『これを廃止する』と勇み足。会議メンバーが困惑し、西村氏自身が公明党に陳謝する一幕もあった。他省庁からは『こちらの所管だ』『ムカッときた』などの反発の声も上がった」
こうした政府内の調整もなく勝手に動く「行動力」が菅官房長官との軋轢を生んでいるようだ。
(福田和郎)