新型コロナウイルスの感染拡大の中で、感染予防の手洗い消毒やマスク着用はあっという間に日常化した。自分たちでできることは自分たちで行うという日本人の価値観の発露でもあるが、その国民性から、ウィズコロナから、コロナ禍を脱したアフターコロナへの移行は、欧米などより早く実現する可能性があるという。
本書「ニューノーマル時代のビジネス革命」は、アフターコロナのニューノーマル時代を先取りしたと考えられる企業事例を紹介。今後の事業について考えている企業が新時代に適応するためのヒントが盛り込まれている。
「ニューノーマル時代のビジネス革命」(日経クロストレンド/藤元健太郎著)日経BP
その場しのぎのロナ対策では「革命的存在」にはなり得ない
著者の藤元健太郎さんは、長くインターネットビジネスのコンサルティングに携わり、2002年からデジタル領域の分析・コンサルティングファーム、D4DR(ディフォーディーアール)代表取締役社長を務めている。本書の内容は、2020年4月に雑誌「日経クロストレンド」に寄稿した記事を整理しなおしたものだ。
本書では「ニューノーマルにおけるビジネスコンセプトと事業機会を4つのキーワードで整理することを試みた」として、Traceability(トレーサビリティー)、Flexibility(フレキシビリティー)、Mixed Reality(ミックスドリアリティー)、Diversity(ダイバーシティー)―の4語を列挙。それぞれに1章ずつを割り当て詳しく解説している。
コロナ禍後の新たな生活様式の下では、ビジネスで革命的存在になれる可能があるものは、ほとんどがコロナ(予防)由来ではあるが、コロナに直面してからとられた対策では、その場しのぎにはなり得ても、革命的存在にはなり得ない。
たとえば、コロナ禍では飲食店が大きな打撃を受け、営業自粛の代替策にテイクアウトを急きょ開始したところが多い。だが「テークアウト始めました」だけで次々と客がやってくるわけではない。
そうした中で、吉野家は独特のアプローチでコロナ禍を克服。コロナとは関係なく計画した商品販売方法のマルチ化が、コロナ禍で切り札的役割を果たし、そのことが「フレキシビリティー(柔軟性)」で紹介されている。
3年前から開発に着手
吉野家ホールディングスの2020年3月の既存店売上高は、前年同月比98.2%と微減にとどまり、ファミレスや居酒屋チェーンが2~4割減を強いられるなか、健闘した。それを支えたのは、テイクアウト注文を積極的に受けるリスク分散。吉野家では20年2月、従来の店頭テークアウトに加え、スマホで注文して店舗で受け取るモバイルオーダーサービスの全国展開をスタートしており、待ち時間がない利便性が好評を博した。
吉野家は2017年から、モバイルオーダーの開発に着手。店舗オペレーションを変更することがない販売方法や、POSレジと連携させた店舗注文とモバイル注文とを一元管理できるシステムの開発のため連携企業を慎重に選びながら作業を進めてきた。
新型コロナの影響が一過性でないことがわかってからは、POSレジのサービス会社をはじめ、ソリューションサービス会社やフードデリバリー事業者などがこぞって飲食店向けに、オンラインで注文を受けるシステムの売り込みを行うようになっており、吉野家は時代を先取りしたといえそうだ。
本書では、消費者向けサービスばかりではなく、ニューノーマルの働き方改革なども紹介。各企業でコロナをきっかけに導入され定着化したテレワークについて、富士通では以前から一部で、育児や介護による離職を防ぐための施策として導入していたことを紹介。コロナ禍での感染予防目的による全社導入を経て、当面の危機が去った後も定着。こうしたことをきかっけに、同社では通勤定期代を廃止し、オフィスの半減を目指しており「ワークスタイルや居住地選びが根本的に変わる出来事」と指摘している。
「ニューノーマル時代のビジネス革命」
日経クロストレンド/藤元健太郎著
日経BP
税別1600円