日本と韓国の対立をさらに激化させる「時限爆弾」が爆発するカウントダウンが秒読みに入った。対立の引き金になった元徴用工裁判で、被告の日本企業の差し押さえられた資産の現金化が2020年8月4日から可能になるからだ。
元徴用工裁判の弁護団は「現金化を急ぐ」と宣言。文在寅(ムン・ジェイン)大統領も静観の構えだ。安倍晋三首相が報復に出るのは必至で、日韓は終わりなき泥沼の対立に突入するのだろうか。韓国紙で読み解くと――。
報復は韓国産製品の追加関税や韓国への送金規制か?
元徴用工裁判をめぐる問題で、韓国の裁判所が差し押さえた日本企業(日本製鉄)の資産現金化が可能になる期限が8月4日午前0時に迫った。原告側弁護団は、原告でただ一人の生存者である李春植(イ・チュンシク)氏が96歳という高齢であることを考慮して現金化を急ぐと宣言している。
こうしてカウントダウンが迫るなか、韓国メディアの多くが、日本がいかなる報復に出るか固唾を飲んで見守っている。聯合ニュース(2020年8月2日付)「解決策見えない『徴用工』問題 日本製鉄資産の現金化迫る=韓日関係悪化必至」は、こう伝える。
「韓日両国とも現金化を回避したいという考えでは一致しているが、解決策は今なお見つかっていない。現金化すれば、日本側も厳しい対抗策を取ると表明しており、両国の対立は一段と激化しそうだ。報復措置としては、ビザ(査証)発給要件の厳格化や駐韓日本大使の召還などが日本メディアで報じられている。韓国産製品に対する追加関税措置や韓国への送金規制なども取りざたされている」
朝鮮日報(8月3日付)「徴用企業資産売却あすから効力... 日本、韓国への送金規制など報復示唆」も、こう危機感をあらわにしている。
「日本の菅義偉官房長官は8月1日、読売テレビの番組で、『ありとあらゆる対応策を検討し、方向性はしっかり出ている』と述べた。韓国で日本の徴用企業の資産売却が実際に行われた場合、報復措置に出る可能性を示唆したものだ。両国間で『強』対『強』の衝突局面が再燃するかもしれない」
ただし、実際の手続きは8月4日午前0時をもってすぐに差し押さえ資産の現金化ができるわけではない。いろいろと複雑な手続きがある。まず、被告企業の日本製鉄が8月11日まで異議申し立ての即時抗告ができる。また、裁判所が必要と認めた場合には、日本製鉄から意見を聞く「尋問」が行われる可能性もある。それに、差し押さえ資産の売却額を算定する「鑑定」の手続きも必要だ。
こうした手続きがすべて行われるとすると(裁判所の判断次第では一部を省略できるが)、実際の現金化は秋以降という見方が強い。いずれにしろ現金化の命令のタイミングは裁判所次第だ。
朝鮮日報は、
「(たとえ実際に資産が売却されるまで相当の時間がかかったとしても)日本政府としては自国企業の資産が売却手続きに入ったことに敏感に反応する可能性が高い。日本政府はこれまで『現金化されるような事態は避けなければいけない』とし、そうなれば報復措置を取ると何度も警告してきたからだ」
と警戒する。
日本企業や国民も被害を受けるから報復カードは切れない
一方、左派系の新聞で文在寅(ムン・ジェイン)政権寄りと見られているハンギョレは、「日本政府もすぐには強硬手段には出られないだろう」と、やや都合のよい論調を張っている。8月3日付の「強制動員企業の資産、4日から現金化...日本は報復を予告」で、こう述べているのだ。
「(現金化されれば)日本政府は報復に乗り出す考えを明確にした。日本の報復が現実化すれば、韓日関係は再び経済報復へとつながり、破局に向かう可能性が高い。ただ、実際に現金化されるまでには、売却命令審理、株式鑑定、売却などに相当な時間がかかるとみられ、日本の報復措置がいつ取られるかは不透明だ。また、日本が報復を強行した場合、昨年の輸出規制の時のように、日本も被害を受け得るため、慎重になっているのも事実だ」
その理由として、ハンギョレはこう説明するのだった。
「日本政府のビザ発給制限や金融制裁などの報復案は、日本の企業や国民にも不利益を与える可能性がある。このような理由から、日本政府は直ちに報復カードは切らず、当分の間は現金化の手続きを見守る可能性が高い。年末頃までこう着状態が続くだろう。日韓いずれも正面衝突は危険だと考えてはいるものの、問題は解決策がないということだ。日本政府は、『強制動員被害者問題は1965年の韓日請求権協定ですべて解決済み』という主張を曲げていない。韓国政府は最高裁の判決を尊重し、『被害者中心主義』の観点からこの問題を解決するという原則を繰り返しているが、具体的な解決策を見出すのは容易ではない」
いったい、どうすればよいのだろうか――。中央日報(7月14日付)はコラム「時論:韓国大法院強制徴用判決の現金化事態、政府が決断を」で、元韓国政府外交部条約局長のイム・ハンテク・韓国外国語大教授の寄稿を掲載した。イム教授は文在寅大統領に、こう決断を迫ったのだった。
「たとえ過去の政府が結んだ協定(編集部注:1965年の日韓請求権協定)に問題があるといっても、国際社会で責任ある国家としてこれを包容することにより、われわれの自負心と日本に対する道徳的優位を示すことができる。1993年当時、金泳三(キム・ヨンサム)大統領は日本の真相究明と謝罪および後世に対する教育を要求し、韓国政府が直接救済すると宣言した。
中国も戦後日本に対する賠償要求を放棄し、『以徳報怨(徳をもって恨みに報いる)』という立場を取った。嫌いだからと言って引越しすることもできない日本は、憎かろうが可愛かろうが共に暮らしていかなくてはならない隣国だ。これは隣接国である韓日両国の宿命だ。
憎しみと不信を今後も先送りしたり永続したりさせてはならない。そろそろ決着させる国民的決断が必要だ。指導者の勇気と国民の支持を結集してこそ可能なことだ」
(福田和郎)