世界中で新型コロナウイルスが猛威をふるっているなか、勝るとも劣らない脅威が東アフリカと南アジアを襲っている。農作物を食い尽くす「世界最凶」といわれる昆虫、サバクトビバッタの大群だ。
古代エジプトの時代からたびたび大発生して人々を苦しめきたバッタだが、現在、大群がアフリカからアラビア半島を通過、イラン、パキスタンを経てインドに達している。行く先々で農作物や牧草を食い荒らすため、通過された国々は食糧危機に陥っている。
ニッセイ基礎研究所の研究員が「蝗害(こうがい=バッタの食害)がコロナに次ぐ新たなリスクに」という調査リポートをまとめた。いったい世界経済にどんな影響を与えるのか、バッタは日本にまでくるのか? J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部は研究員を取材した。
寒さに弱いバッタはヒマラヤ山脈を越えられない?
J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部では、調査をまとめた斉藤誠さんを取材した。
――このサバクトビバッタは、これから中国に進出する危険はあるのでしょうか?(一部の報道ではすでに進出しているとの説もあるようですが)。もし進出すると、コロナによって米国やEU(欧州連合)のGDP(国内総生産)が大きく下落した現在、世界経済の唯一のけん引者である中国に甚大な被害が生じると思います。
斉藤誠さん「サバクトビバッタは、(年間200ミリ未満の雨しか降らない)アフリカ、中近東、南西アジアの半乾燥・乾燥地帯に生息しています。また寒い地域では活動量が落ちる特徴があります。
今回バッタは一時ネパールまで到達しましたが、その多くが繁殖環境の良いインド西部に戻ってきているようです。インドから中国に渡るには、標高の高いヒマラヤ山脈を超える必要があります。バッタ単体の到達高度は海抜2000メートルが限界で、ましてや大群で中印国境の山脈を渡るとは考えられていません。
中国で最近発生しているバッタは別の種類のようですね」
――さらに日本にまで来る可能性、心配はないのでしょうか。日本の歴史をひもとくと古文献にも「蝗害」の記述がみられると言われています。
斉藤誠さん「日本の『蝗害』は別の昆虫(編集部注:ウンカやトノサマバッタなど)と思われます。環境の違いからサバクトビバッタが日本で繁殖することはないと考えられています」
食糧輸出国の南米では別のバッタが大発生中だ
――サバクトビバッタが世界経済に与える影響(食糧・インフラ・人的被害などなど)はどのようなものが考えられますか?
斉藤誠さん「FAOによると、作物被害を受けた東アフリカでは2500万人が食糧危機に直面していますが、2020年の世界の穀物生産量は前年度比3.0%増と予測されています。食糧輸入国のアフリカや中近東で作物被害が出ても、その地域の人々の生活への被害は深刻ですが、世界経済に及ぼす影響は小さいといえます。
しかし、最近はインドやブラジル、アルゼンチンといった食糧の輸出大国でバッタが大発生(南米ではミナミアメリカバッタ)しているので、これらの国で作物被害が拡大して輸出制限を打ち出すことになれば、今後、国際食品価格を押し上げる要因となり得るでしょう。
――このサバクトビバッタの被害を終息させるには、各国はどうしたらよいのでしょうか? また、この被害はいつ、どのような形で終わると考えられますか?
斉藤誠さん「国際社会はバッタの繁殖地でありながら十分な防除活動が行えない国々への支援(資金、食糧支援など)を行う必要があります。バッタを減らすには殺虫剤をまくのが一般的で、広がって飛んでいる成虫にまくよりも、密集している卵や幼虫の群れにまいた方が効果的とされています。 したがって、監視体制を整えて繁殖地で防除を行えば、バッタを制圧することはできますが、一度大量発生を許してしまうと戦いの長期化は避けられません。今回のケースの終息時期はわかりませんが、過去50年間ではアウトブレイク(爆発的発生)するとピークは2~3年続いています」
(福田和郎)