韓国のある植物園に置かれていた彫刻像が、爆発寸前の日韓関係の導火線に火をつけそうだ。慰安婦の少女像に土下座する安倍晋三首相を描いているからだ。
日本政府は「外交的に非礼だ。日韓関係に決定的な影響を与える」とカンカン。一方、韓国内のSNSでは「この像のミニュチアを作り全土に配りたい」という共感の声も上がり、反日に拍車をかけかねない。
そもそもこの像は4年前からあり、何の話題にもならなかったしろもの。なぜ、いきなり脚光を浴びるようになったのか。韓国紙で読み解くと――。
「ソウルの日本大使館前の少女像にも設置したい」
この像の支持者がSNSを通じて、かなり広がっていることも影響しているようだ。朝鮮日報(7月27日付)「『少女像の前で贖罪する安倍像』をどう思いますか?」が韓国内の賛否両論を、こう伝えている。
「7月26日午後、SNS上では『傑作の誕生』と作品を紹介した投稿文に対し、約1000人が『共感する』『共感しない』などさまざまな表情のアイコンをクリックした。『少女像にひざまずいた安倍グッド! 壊されないように管理をちゃんとしないといけない』『これはソウル市の日本大使館前の少女像に設置しなければならない気がする』『久しぶりに素晴らしい芸術作品を鑑賞した』」と肯定的な反応を見せている。
その一方で、一国の現職首相に対して外交的欠礼になり、韓日関係に悪影響を与えるという批判も出ている。
「『個人の作品だが、正直言って外交的負担が感じられる』『いくら嫌いで憎くても、人格冒涜は違うと思う。日本人が文在寅(ムン・ジェイン)大統領をこのようにしたらどうなるだろうか』といったネットユーザーの指摘も相次いだ。このほか、『本当に幼稚ですね』『少女像、もううんざりだ。慰安婦団体の横領事件を責めるべきだ』といった批判的な意見も寄せられた」
今回の「安倍謝罪像」について、韓国政府は表向き静観の構えだ。聯合ニュース(7月28日付)「韓国政府『外国指導者への礼遇考慮すべき』」は、こう伝える。
「外交部のキム・インチョル報道官は会見で、『国際社会には国際礼譲というものがある。どの国であっても外国の指導者クラスに対してそうした国際礼譲を考慮する必要があると考えているだろう』と述べた。ただ、キム氏は、政府が民間の造形物に対して措置を取れるかどうかを尋ねられ、『私有地にあるものに対し可能な部分、可能でない部分について法を綿密に見極める必要がある』と答えた」
火薬庫のような熱い日程が続く日韓の8月
韓国政府が様子見なのは、これからの1カ月、日本との間にとんでもなく多くの難関が待ち受けているからだ。
中央日報(7月29日付)「安倍謝罪像に日本の反発拡散...『非常識で異常な行為』」が問題の数々を、こう列挙する。
「来月(2020年8月)は韓日対立を増幅させかねない日程が相次ぐ予定だ。韓国政府が指定した『日本軍慰安婦被害者をたたえる日』(14日)、光復節(15日=韓国の独立記念日。日本は終戦記念日)、韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)延長期限(24日)などだ。また、強制徴用被害判決と関連した日本の被告企業の資産現金化が可能になるのが4日である点も変数になる」
民間の一植物園が余計なことをしてくれた、という思いが文在寅政権にあるのかもしれない。
(福田和郎)