昨年(2019年)、楽器のケースの中に入って逃亡するという映画さながらの出来事が起こりました。日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン氏の国外逃亡事件です。
その時に手助けしたテイラー親子がいるのですが、ゴーン氏の息子であるアンソニー・ゴーン氏が協力金として、50万ドル相当(約5300万円)をビットコインで送金、つまり支払っていたことがわかりました。
参考リンク:「カルロス・ゴーン氏の日本脱出費用、ビットコイン(BTC)で送金 5000万円相当」(COINPOST 2020年7月24日付)
ビットコインが犯罪に使われたと、悪く思う声もあるようですが、本当のところはどうなのでしょう。今回は、仮想通貨の業界関係者からみた考えをお伝えしたいと思います。
捜査を後押し? ビットコインなら「追跡」できる!
米司法当局が2020年7月22日に連邦裁判所に提出した資料によると、ゴーン氏側は米国大手の仮想通貨取引所コインベース(coinbase)を通じて、ビットコインを送金したとされています。
コインベースは世界32か国に展開。仮想通貨の取り扱いに関しても慎重なため、厳格な取引所として知られています。
通常、犯罪に使われているビットコインアドレスはフィルタリングされており、送金ロックが掛かるなど、取引所は対策を講じています。今回は、両社とも一般人であったため、送金できたということでしょう。
しかし問題はそこではなく、ビットコイン以外も協力金の支払いに使われたということです。親子に支払われた総額は約1億4500万円。そのうち、ビットコインで支払われた割合は37%です。残りはバンクオブアメリカから、米ドルで支払われました。
つまり「ビットコインが犯罪に使われた!危ない」と考えるのは大きな間違いなのです。
むしろ、現金よりも捜査が進めやすくなる可能性があります。なぜか――。それは、現金の場合は口座から引き出されてしまえば、いつ、誰がどこに持っているのか、わからなくなります。ところが、ビットコインであれば、送金履歴を追いかけることができるのです。
ビットコインが違法な取引に使われて「おもしろい」とは?
今回の事件に関して、日本銀行、国際決済銀行(BIS)などで働き、麗澤大学経済学部の教授を務める中島真志氏は「ビットコインが違法な取引に使われておもしろい」とツイートしました。
同氏は「アフター・ビットコイン」(新潮社刊)を出版しており、そこではビットコインは終わり、ブロックチェーンはこれからが本番という考えを展開しています。
この「おもしろい」という発言には、業界関係者が大きく反応。何をもって「おもしろい」のか筆者は理解できないのですが、中島氏によると、ビットコインの利用者のうち、違法ユーザーが25%。取引件数のうち、麻薬などの違法取引の割合が44%という研究結果が出ているそうです。
ちなみに、国内で仮想通貨ユーザーは350万人以上いるのですが、果たして90万人近くが違法ユーザーなのでしょうか。
bitFlyerの創業者である加納裕三氏は、「違法行為をする人は、多くのアドレスを使いトラッキングできないようにすることが要因ではないか」とコメントしています。
何はともあれ、決済分野を代表する有識者が、適切な解説をせずに「おもしろい」と片づけてしまう状況は、まだまだ日本は仮想通貨の発展途上国と言えますね。
最後に、ビットコインが悪い印象を持たれるキッカケとなった事件について紹介しましょう。
仮想通貨が知られる2013年に、シルクロードと呼ばれる闇サイトでは、支払いにビットコインが利用されていました。当時はウォレットに本人確認が必要ありませんでしたから、お互いを知ることなく決済が可能でした。しかし、シルクロードはFBIに摘発され、ビットコインも押収されました。その量はなんと14万4000BTC(当時の価格で28億円)にものぼりました。シルクロードが閉鎖されてから、当時の最大手取引所であったMt.Goxのユーザー利用率が、およそ20~30%落ちるほどの影響力があったそうです。
こういった事件を受けて、仮想通貨のウォレットにも銀行口座と同じように本人確認を行う動きが出てきました。
コロナショックによって、新興国の通貨価値は下がっているため、ビットコインで資産を守っている人も多いことでしょう。一刻も法律や運用ルールが整備され、誰でも安心して使えるビットコインが、「おもしろい」といえる技術発展を期待したいですね。(ひろぴー)