新型コロナウイルスの感染拡大の影響が、賃金を「直撃」している。
東京商工リサーチによると、2020年度に賃上げを実施した企業(一部予定含む)は57.5%で、前年度を23.4ポイント下回り、2016年度以降で最も大きい下げ幅となった。7月20日に発表した。
ここ数年は政府の旗振りで「賃上げ実施率」は80%を超えていたが、コロナ禍による経済活動の停滞で大幅に落ち込んだ。
「実施率」2016年度以降で最低の57.5%
「賃上げに関するアンケート 2020年度」調査によると、1万3870社のうち、「実施した」企業は57.5%(7986社)で、定期的な集計を開始した2016年度以降で最低となった=下図参照。実施率が80%を割り込むのは、2016年度以降で初めて。
中間集計(3月27日~4月5日に実施)では、「実施する(予定含む)」が72.1%、「実施しない(予定含む)」が27.9%だったが、わずか3か月で「実施する」は14.6ポイントも下落した。
賃上げの実施状況を規模別でみると、大企業の「実施率」が65.9%(2290社中1509社)で、中小企業(資本金1億円未満、個人企業を含む)は55.9%(1万1580社中6477社)で、10ポイントの差がついた。規模間の財務内容の格差が顕在化した格好となった。
また、産業別でみると、「実施した」の割合が最も高かったのは、製造業で62.8%(3949社中2480社)だった。次いで卸売業の60.8%(2968社中1807社)、建設業が59.9%(1624社中973社)で続いた。
宿泊業や旅行業、飲食業などが含まれるサービス業他の「実施率」は、大企業が58.3%(365社中213社)に対して中小企業は48.1%(2164社中1041社)で半数に届かなかった。コロナ禍の影響が大きい業種では、規模が小さいほど賃上げが難しいことを示した。
最低は、金融・保険業の29.4%(170社中50社)だった。
人材確保に中小企業は止むにやまれず......
賃上げを「実施した」企業にその内容を聞いたところ、7589社が回答。最も多かったのは「定期昇給」の84.8%(6436社)で、「ベースアップ」の30.8%(2344社)、「賞与(一時金)の増額」の23.5%(1784社)、「新卒者の初任給の増額」の8.2%(623社)と続いた。
賃上げ実施企業(規模問わず)の「賃上げ率」は、3%未満が57.7%に達し、約6割を占めた。中小企業でも実施企業のうち、45.2%の企業の賃上げ率が3%を超えており、「中小企業の間でも格差が拡大している」(東京商工リサーチ)。人材確保や定着率などで苦戦を強いられる中小企業にとって、賃金引き上げによる待遇改善は止むにやまれぬ施策ともいえる。
このまま新型コロナウイルスの終息が長引くと、冬の賞与(一時金)だけでなく、来春の賃上げも厳しい事態が現実味を帯びてくる。東京商工リサーチは、「可処分所得の下落は消費マインドを冷え込ませ、小売業や卸売業、製造業の業績悪化を誘発し、負のスパイラルに陥りかねない」と指摘している。
なお、調査は6月29~7月8日に実施。有効回答の1万3870社を集計、分析した。