政府の緊急事態宣言や東京アラートが続々と解除され、ふだんの仕事や生活に戻す動きが少しずつ始まった矢先、東京を中心に「感染第2波」の様相を呈しています。
企業信用情報の帝国データバンクによると、2020年7月17日現在、新型コロナウイルス関連倒産は全国で353件が判明。そのうち、法的整理が276件(破産247件、民事再生法29件)、事業停止が77件あります。「飲食店」(51件)や「ホテル・旅館」(46件)、「アパレル・雑貨小売店」「食品卸」(それぞれ22件)、「食品製造」(19件)などが、その上位を占めています。
中小企業の倒産は増えています。今後もどんどん増えていく可能性が高いと思われます。そこで、業績悪化による会社で起きるトラブルについて、闘う弁護士、グラディアトル法律事務所の井上圭章弁護士に聞きました。
業務委託契約を解除、「えっ、わたしはどうなるの?」
Q 契約は今年いっぱいだったのに、業績悪化を理由に業務委託契約を突然切られました。問題ないのでしょうか?
業務委託契約の内容にもよりますが、会社側が一方的に契約を解除したことによって損害が生じた場合、その損害について賠償の問題が生じます(民法641条、656条、651条参照)。
ただ、業務委託契約書に、「事情により契約期間の変更の可能性がある」旨の記載や、「1か月前に解除通知をした場合には、当然に契約が終了する」などの条項がある場合、基本的には、契約条項の定めに従うこととなりますので注意が必要です。
そのため、業務委託契約でどのような条項が定められているかについては、契約の段階でよくよく検討しておく必要があります。
とはいえ、たとえば業績悪化で今後の業務委託契約の継続が難しいような雇用状況にありながら、そのことを隠して契約を継続していたような場合や、労働者側が不利になるような状況で契約を変更するなどの行為には、会社側が一定程度の損害賠償責任を負う可能性があります。
他方、契約の名称が「業務委託契約」となっていても、その仕事の実態が、普通の会社員と変わらないような場合、「労働者」と解釈され、労働基準法等の労働法条の問題が生じる可能性があります。
こうした判断は、法的な問題や解釈が含まれるため、自分で判断して話を進めるのではなく、弁護士など法律の専門家や労働局や労働基準監督署への早めの相談をオススメします。
契約書がない場合、あきらめるしかないの?
Q きちんとした契約書がない場合は、あきらめるしか仕方がないのでしょうか?
確かに、契約書がある場合のほうが、契約内容が明らかになるため、当事者間での紛争は起きにくいです。
しかし、契約書はあくまで当事者間でどのような内容の意思の合致があったのか、すなわち、どのような契約内容で合意したのか、について明らかにする書面ですので、仮に契約書がなかったとしても、あきらめる必要はありません。
その場合、どのような契約内容であったのかについて、これまでの仕事内容や取引関係が明らかになる書類(指示書や報告書、請求書、領収書など)、メールやLINEでのやりとりなどから、契約内容を特定していくことになります。日ごろから、仕事内容や会社とのやりとりなどをメモしておくことも自己防衛につながります。
契約書がない場合には、法的に整理したうえで、必要となる証拠について集める作業が必要になりますので、専門家への早めの相談が有効です。
Q 労働者が、業績悪化していることや倒産しそうだという話を事前に知った場合、先手を打つ有効な方法はありますか?
業務委託契約と異なり、労働者の場合、使用者である会社との間に、未払いの給与や残業代がある場合があります。
このようなケースの場合、会社から未払い給与や残業代が支払われない可能性がありますので、会社に対し、早急に給与や残業代を請求しておくことが有効です。
その場合、弁護士事務所などの専門家への早めの相談をオススメします。
また、早期退職制度などがある場合には、それらの制度を活用するという方法もあります。 倒産が現実のものとなれば、給与や退職金が支払ってもらえない可能性は高まります。そのため、会社がすぐ払えるような状態にある時点で、会社と話し合い、早期退職をすることで、給与や退職金を確実に確保できるというメリットがあります。はできます。ただ、その場合、退職金の金額は少なくなる可能性があるというデメリットもあります。このような場合、メリットとデメリットの双方を考慮し、今の自分にとってベストな選択を検討することとなります。
倒産すれば解雇に、しかし「救済措置」はある!
Q 会社が倒産した場合、労働者はどうなるのでしょうか? 倒産した会社へお金は請求できないのでしょうか?
会社が倒産した場合、労働者は解雇されるケースが多いです。
解雇となれば、会社と労働者との雇用契約は終了することとなります。この場合、未払い賃金や退職金などがあれば、労働者は会社に対して、それらの金銭の支払いを請求することができます。
ただ、会社にお金がまったくないような場合ですと、会社からの支払いは期待できません。 そのような場合には、「未払賃金立替払制度」を利用する方法があります。
この制度は、倒産によって賃金の支払いを受けることができない労働者を保護するための制度で、
(1)会社が1年以上事業活動をしていたること
(2)倒産状態にあること
(3)労働者が倒産の申し立てなどが行われた日の6か月前の日から2年の間に退職した者であること
を条件に、その労働者は未払い賃金の8割の支払いを受けることができます。
突然の倒産では、未払い賃金が発生しえていることがないとはいえません。状況を確認して、もし未払い賃金などがあった場合には、労働基準監督署または独立行政法人労働者健康安全機構で上記制度を実施していますので、ご相談ください。
また、会社が倒産して次の勤め先を探す場合、一定の要件を満たせば、雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付)を受けるとこができますので、ハローワークに相談することをオススメします。
今週の当番弁護士 プロフィール
井上圭章(いのうえ・よしあき)
グラディアトル法律事務所所属
九州国際大学法学部卒業後、京都産業大学法科大学院修了。「労働問題」「男女トラブル」「債権回収」「不動産トラブル」などを得意分野とする。
労働問題に関する相談(https://labor.gladiator.jp/)。