大阪府泉佐野市が「ふるさと納税制度」から除外されたことの適法性を問う裁判で2020年6月30日、最高裁判所が国・総務省の措置は違法とする判決を下したことで、大手メディアはこぞって泉佐野市の「逆転勝訴」と囃し立てた。
だが、この判決をもってしても、ふるさと納税制度の抱える問題は、まったく解消されてはいない。
返礼品は寄付額の3割以下で地場産品に限る
「ふるさと納税制度」は応援したい地方自治体に寄付すると、居住地の地方自治体の住民税などが控除される寄付税制制度だ。この寄付を求めて、各自治体が返礼品を高額な物とする競争が過熱したことで問題となり、総務省がさまざまな措置を行った。
以下、ふるさと納税制度の主な動きをまとめてみた。
《 ふるさと納税制度に関する主な動き 》
2008年 「ふるさと納税制度」導入
2015年 総務省が高額返礼品や商品券などを提供しないよう求める通知を発出
2017年4月 総務省は返礼品について調達費は寄付額の3割以下、返礼品は地場産品に限るとする基準を設置
2019年4月 総務省が「2018年11月以降、趣旨に反する方法で多額の寄付金を集めた自治体は除外する」と告示
2019年5月 総務省が泉佐野市をはじめとした4地方自治体をふるさと納税制度から除外
2019年6月 改正地方税法が施行。「返礼品は寄付額の3割以下とし、地場産品に限る」との基準と、基準に合わせて総務省がふるさと納税の対象地方自治体を指定する制度を導入
2015年に総務省が発出した高額返礼品や商品券などを提供しないよう求める通知には法的拘束力がなく、多くの自治体はこの通知にそって返礼品の見直しを行ったものの、それでも返礼品を高額な品物に設定する競争は収まらなかった。
このため、2017年4月に総務省は返礼品の金額を寄付額の3割以下とし、地場産品に限るとする基準を設置したものの、地場に魅力的な産品がない地方自治体からの反発もあり、返礼品に商品券や高額返礼品を提供する自治体はなくならなかった。
そこで総務省は、2018年11月以降も趣旨に反する方法で多額の寄付金を集めた自治体は、ふるさと納税制度から除外するとし、翌5月には泉佐野市をはじめとした4地方自治体をふるさと納税制度から除外した。
さらに、翌年6月には「返礼品は寄付額の3割以下とし、地場産品に限る」とする改正地方税法が施行され、同時に総務省がふるさと納税の対象地方自治体を指定する制度が開始された。
ふるさと納税制度から除外された泉佐野市は、国に対して除外決定の取り消しを求めて、訴訟を起こすが敗訴、控訴したものの大阪高等裁判所でも敗訴した。しかし、最高裁判所における上告審判決で、第3小法廷(宮崎裕子裁判長)は大阪高裁の判決を破棄・決定を取り消し、泉佐野市の逆転勝訴が確定した。
問題は「ふるさと納税」がなければ地方自治が成り立たないこと
訴訟の争点は、2019 年6月の改正地方税法による対象地方自治体の指定制度導入時点で、泉佐野市の返礼品の状況を理由に指定除外としたことが法的に妥当かという点だった。
国は「過去の実績を判断材料とすることには、一定の合理性がある」と主張。これに対して最高裁は、「新制度の施行前は返礼品の提供で特に法令上の規制は存在しなかった。新制度は一定の対象期間の寄付金募集実績に関するもので、施行前の過去の実績をもって不適格とすることを予定していると解するのは困難」とし、除外処分は無効と判断した。
ただし、最高裁は泉佐野市が返礼品にアマゾンギフト券を上乗せするなどの行為に対しては、「寄付金集めをエスカレートさせ、社会通念上の節度を欠いた」と指摘し、その行為に対して「クギを刺した」。
この最高裁判決を受け、総務省は7月3日にふるさと納税から除外した4市町のうち泉佐野市、和歌山県高野町、佐賀県みやき町の3市町の制度復帰を認めた。ただ、残る静岡県小山町は地場産品でない返礼品を扱ったことも除外理由となっていたため、別途検討されていたが、17日には制度復帰が認められた。
一方で総務省は同日、7月23日に高知県奈半利町について、ふるさと納税制度の指定を取り消すと発表した。理由は、奈半利町が返礼品の基準である「地場産品」「寄付額の3割以下」について虚偽の申告を行い、指定を受けていたため。これにより奈半利町は2年間、ふるさと納税制度に復帰できなくなる。
さて、今回の逆転勝訴は泉佐野市をふるさと納税制度から除外したことが適法だったか否かを判断した内容だった。泉佐野市は2017年度に135億円、18 年度497億円をふるさと納税制度で集め、全国トップとなった。
これに対して国は、特別交付税を懲罰的に減額しており、泉佐野市は減額取り消しを求めた訴訟も起こしている。こちらの訴訟については、今後も引き続き司法の場で争われることになる。
しかし、何よりも問題なのは、泉佐野市が逆転勝訴しようが「返礼品は寄付額の3割以下とし、地場産品に限る」とし、ふるさと納税の対象地方自治体を総務省が指定する仕組みに変更はなく、地方自治体間では決められた基準の中で「ふるさと納税を奪い合う競争」が続くことだ。
つまり、本質的な問題はふるさと納税がなければ、地方自治が成り立たなくなっていることにあり、地方税に対する根本的な見直しなどを行う必要があるのだ。(鷲尾香一)