部下をもって初めて実感する壁は「部下を動かすことの難しさ」ではないでしょうか――。
上司はマネジメント関連の書籍を読み漁るかも知れません。しかし、会社ごとに風土やルールは異なるものです。いま、ある状況に直面しているとします。
対策はいくつかありますが、それを実行するには「ルールを破る必要」があります。さて、どうしますか?
「どう伝えればわかってもらえるのか? 部下に届く言葉がけの正解」(吉田幸弘著)ダイヤモンド社
臨機応変に対応することが必要
筆者がIT企業の役員をしていた際の出来事になります。その会社では、ケータイのショップを運営していました。営業開始は午前10時。その日は、新機種の発売日ということもあり、営業開始前にも関わらず数10人が入口のドアの前に並んでいました。しかし、台風の影響で、朝から土砂降りだったのです。この時、ショップのスタッフはどのような対応をすべきでしょうか。
店舗運営マニュアルには、キャリアから配布されています。原則的にはマニュアルに記載されていないことはできません。違反すれば処分の対象になります。スタッフは営業開始時間にならないと作業はできないと伝えたうえで、並んでいたお客様を店内に誘導しました。しかし、お客様がこの出来事をブログに書いたため、キャリアが事実を知ることになりました。
キャリアの代理店責任者が店舗の査察に乗り込んできました。処分は免れないとの予測でしたが、最終的には処分保留が決定します。その後、雨天時などの緊急時対応の項目が、運営マニュアルに追記されたことは言うまでもありません。
ある通販会社では、このような出来事がありました。お客様から注文の電話が入りましたが、時刻が締め切りの夕方17時を1分過ぎていました。電話に出たSV(スーパーバイザー)は「ダメ、できない」の一点張りで、お客様は怒ってしまいました。このケース、対応する策はなかったのでしょうか?
ルールがあると臨機応変に対応がしにくくなります。このケースでは、会社はイレギュラーな対応をしないことを結論として導き出しました。つまり、17時ジャストに電話が通じなくなるようにしたのです。お客様も電話が通じない以上、どうしようもありません。
伝えたいことはシンプルにまとめる
著者の吉田幸弘さんは、方法を「棚卸し」する必要性を説きます。「ルールは守らせるべきだが、状況や環境が異なれば、変えるのがルールである」と。
さらに、「ルールをつくった根拠を考えずに『いいから守れ』と強制していたら、部下も納得がいきません。強制していたら自分で考えない部下になってしまう」と指摘します。
つまり、ルールをガイドラインのひとつに過ぎないと考えればいいのです。他に適したやり方があれば変えることができるものと捉えられれば幅が拡がります。ルールは絶対不変なものではないのです。
あなたの会社にはいませんか。「ひと言で簡潔に説明します」と言いながら、やたら話が長く「この人は何が言いたいんだろう」という上司が......。
部下が聞く耳をもたなくなったら、コミュニケーションは崩壊していくでしょう。部下に指示をする前に、自分に投げかけることが大切です。脈略のない話ほどストレスを感じることはありません。
吉田さんは、次のように述べています。
「何を話すかが頭の中で明確化されていないとシンプルに伝えることはできません」
と。
伝える内容も体系立てて話せるようになるには、頭の中で明確化する必要があります。なお、本書には、基礎から応用まで多数の事例が紹介されています。新入社員や新任管理職の方へのオススメ本として紹介します。(尾藤克之)