東京都の小池百合子知事が2020年7月5日の知事選で対立候補に大差をつけて再選されたことが、韓国メディアにショックを与えている。
じつは小池都知事、日本ではほとんど伝えられていないが、韓国メディアの間では、安倍晋三首相はもちろん、あの石原慎太郎元東京都知事をも上回る「嫌韓極右政治家」とみなされているのだ。その小池知事が圧勝したことで、
「それほど日本人の嫌韓意識が強いのか。日本の首都・東京でまだ嫌韓ムードが続くのか」
という落胆が走っている。いったい、どういうことか。韓国メディアで読み解くと――。
関東大震災の朝鮮人虐殺追悼式の弔文を拒否
小池都知事が圧勝して再選された翌日の7月6日、韓国では左派系新聞ハンギョレが「『極右政治家』小池氏が再選」などと批判的に報じたが、保守系新聞の朝鮮日報までが「小池氏、東京都知事再選...『嫌韓』ムード続く見込み 東京韓国学校移転など滞る」という見出しで、こう報道した。
「過去4年間にわたり韓国人差別政策を露骨に繰り広げてきた現職の小池百合子氏が東京都知事選で再選を果たした。テレビ東京のニュースキャスターとして活動して40歳で政界入りした小池氏は、日本の政界では『執念の女』と呼ばれている。日本新党・新進党・自由党・保守新党を経た後、2003年に自民党に入党した小池氏には『政界渡り鳥』『政治的目的のためなら何でもできる政治家』という評価がついて回る」
と、小池知事の経歴と評価を伝えながら、「韓国人差別」の問題点をこう指摘する。
「小池氏は2016年の都知事選出馬時、朴槿恵(パク・クネ)大統領=当時=の要請で舛添要一前都知事が約束した東京韓国学校の移転計画を白紙化すると公約した。東京都新宿区にある1400人規模の小中高課程を持つ東京韓国学校は敷地が狭く、在日韓国人社会はこれを拡大・移転することを宿願事業として推進していた」
その宿願が果たせなくなったばかりか、それ以上に韓国中を激怒させる出来事が起こった。朝鮮日報がこう続ける。
「小池氏は毎年9月1日、1923年の関東大震災時に日本人(の自警団や軍隊に)によって虐殺された韓国人の追悼式が行われる際に、都知事が追悼文を送っていた習慣も廃止した。この追悼式には『極右の代名詞』と言われた石原慎太郎元都知事も欠かさず追悼文を送っていたが、小池氏は就任翌年からこれを拒否し続けている」
小池知事が、最初に朝鮮人虐殺追悼文を拒否した2017年、ハンギョレ(8月25日付)は「小池東京都知事、犠牲者追悼行事に追悼文送った慣例破る 極右勢力の朝鮮人被害歪曲加速を憂慮」という見出しで、こう批判した。
「小池知事は、9月1日に東京都墨田区の横網町公園の朝鮮人犠牲者追悼碑の前で開かれる関東大震災朝鮮人犠牲者追悼行事に追悼文を送ってほしいという主催側要求を断った。これまで石原慎太郎、猪瀬直樹、舛添要一氏など前任の東京都知事は毎年追悼文を送ってきた。小池知事も就任直後の昨年(2016年)には追悼文を送ったが、今年は突然立場を変えた」
東京都議会で自民党所属の都議会議員が「碑文に書かれた犠牲者数の根拠が薄弱だ」と主張すると、小池知事は「慣例的に追悼文を出していたが、今後は内容を調べたうえで追悼文を発表するか否かを決める」と答えた経緯がある。日本では小池知事の追悼文提出拒否が関東大震災の朝鮮人被害事実を歪曲しようとする動きを加速させるのではと、ハンギョレは憂えるのだった。
「三国人」発言の石原氏でも弔文は送り続けた
ハンギョレは小池知事批判の手を緩めない。2019年8月30日付では「インタビュー:関東大震災朝鮮人虐殺否定論、かつては右翼も想像できなかった」という見出しで、日本のノンフィクション作家・加藤直樹氏のインタビューを掲載した。加藤直樹氏は朝鮮人虐殺事件を取り上げた『九月、東京の路上で―1923年関東大震災 ジェノサイドの残響』『TRICKトリック「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』などの著作がある人だ。
インタビュー記事の中で加藤直樹氏は、こう述べた。
「私は2000年の石原慎太郎元都知事の『三国人』発言をきっかけに朝鮮人虐殺について調査し始めたと。石原元知事は当時、『不法入国した多くの三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪を繰り返している。大きな災害が起きたときには大きな騒擾事件すら想定される』と述べた。そのとき、朝鮮人虐殺は昔の話ではないと感じた。ところが、そんな石原氏でも追悼文を送らない理由を見つけられなかった。石原元知事も、関東大震災の朝鮮人虐殺そのものを否定するという発想はなかった」
そして、小池知事に関してはこう語った。
「小池知事は『東京で起きた大きな災害後、さまざまな事情で犠牲になられた方々に対し哀悼の意を表する』という表現を使って、朝鮮人を対象に別途の追悼文を送らないと言っている。しかし、『多くの事情で亡くなった方』は虐殺された人しかいない。小池知事は『殺された』という表現すら使わない。『虐殺否定論』を信じている証拠ではないか」
小池氏の反対で地下の教室で勉強する韓国学校の生徒
ところで、韓国人学校はどうなったのか――。
朝鮮日報(7月9日付)「小池都知事再選で新設阻まれた東京韓国学校...児童・生徒は『ギュウギュウ詰め教室』で勉強」という見出しの記事で、あまりに狭すぎるため地下に教室を作ることになったという、気の毒な話を載せている。
「東京都新宿区若松町にある東京韓国学校の本館地下。太陽の光がほとんど入らない地下多目的教室のドアを開けると、嫌なにおいが鼻を突いた。東京で雨が降り続いているため、地下室特有のにおいがするのだ。教室不足のため既存の地下会議室を区切って作った教室の一つだ。韓国はもちろん、日本でも子どもたちの情緒を考慮して、よほどのことがない限りこのような『地下教室』は作らない」
韓国人小中高生1400人が約6000平方メートルの敷地に建つ校舎2棟で学校生活を送っている。施設環境は劣悪だ。校庭も狭く、縦50メートル×横60メートル。「サッカー絶対禁止」が規則だ。1954年に開校、日本で唯一、韓国の教育法に基づいて教えており、在日韓国人社会のアイデンティティーを象徴する存在だ。しかし、過密問題に悩まされ、呉公太(オ・ゴンテ)現理事長(元在日本大韓民国民団=民団団長)が中心になり、別の場所に韓国学校を建てる案を推進してきたのが、小池氏が都知事でいる限り実現の見通しはたっていない。
朝鮮日報の取材に対し、郭尚勲(クァク・サンフン)校長は、
「狭い空間で生活する児童・生徒たちを見ると、いつも申し訳なくて胸が痛みます」
と語ったのだった。
(福田和郎)