齋藤道三は「商才」もスゴかった! 現代に通じる「商売」「折衝」「管理」「育成」の極意(大関暁夫)

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齋藤道三は「恐るべき指導者」だった

   まずは基本に忠実なその考え方が奮っています。前記の冒頭と末尾にある言葉に、時代を問わぬ商いの基本が語られています。

   売り上げの大小で客あしらいを変えてはならないという商売思想、上に立つ者といえども自らが商売の最前線を経験しなければ大きな商いの指示などできないという行動姿勢は、顧客を惹きつけ使用人たちの信頼感を得ることの大切さを知ればこその言葉であり、室町時代の商売経験のない道三がそれを知って語っていたとは恐るべき指導者であると思わされます。

   さらに驚くべくはこのあとのくだり。道三は自ら油売りをする中で使用人たちが一滴残しで貯めた油を自分の商売にしている悪事を見つけ、それを禁じます。その際にしたことがふたつあり、ひとつは客自身に油の計量をしてもらい、公明正大な業務姿勢を顧客に表明し店の信頼感を高めたこと。今ひとつは、使用人たちに一滴残しでこっそり稼いでいた油と同量の油を日々くれてやることで、彼らの身入りの足しを店がつくってやりモチベーションを上げ、忠誠心を強くさせたのだといいます。

   美濃の守護・土岐氏に取り立てられ、国主の代行を任された折にも、長良川の大決壊で被害を受けた農民には年貢をすべて免除したり、冷害の際には通常5公5民の年貢を2公8民にしたりと、農民の立場に立った配慮ある領主ぶりを実行しています。

   また、百姓であろうとも有能な者とみれば士分を与える、規律破りの人材登用もしたといいます。そんな下層民を思う姿勢は広く浸透し、百姓からは「斎藤様」ではなく仏門名で「道三様」と呼んで神的に崇められ、いざ戦(いくさ)の陣貝が鳴れば、この百姓たちが我先に馳せ参じ足軽として働いてくれたのも、道三の日常的な配慮あればこそだったのでしょう。

   このような「国盗り物語」に書かれたことが、すべて史実にそったものではないかもしれませんし、一部は作者の司馬遼太郎の創作でもあるのかもしれません。しかし、客の立場で考え、時には使用人の立場で考え、一国を収める立場になれば農民の立場で考える、本書に記された、常に相手の立場に立ちどうしたら皆の信頼を得られる主人や領主になれるのかと腐心する姿は、今の経営者、管理者たちにも見習うべき点は多いのではないでしょうか。

   「国盗り物語」に描かれた斎藤道三の振る舞いには、商売、折衝、管理、育成などに及ぶ、多くの学びがあります。テレワークが定着に向かい、自宅で過ごす時間が増える今日この頃、息抜きを兼ねて同書から斎藤道三の戦略家哲学、指導者哲学を学んでみるのも一興かと思います。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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