メディアアーティスト、コンピューター研究者の落合陽一さんは、ホリエモンこと堀江貴文さんが「現代の魔法使い」と呼ぶなど、近年、とくに注目が高まっている若手論客の一人だ。
新型コロナウイルスの影響で社会の様相が変わり、新聞やテレビでは、国内外の識者らへのインタビュー企画が続いているが、若者らのあいだではおそらく、この落合さんの発言が待たれていたのではなかろうか。それに応えるようにように出版されたのが、本書「働き方5.0 これからの世界をつくる仲間たちへ」。発売1か月で早くも3刷を重ねている。
「働き方5.0 これからの世界をつくる仲間たちへ」(落合陽一著)小学館
落合陽一さんが提示する「これからの世界」
本書は、2016年4月に出版され、ロングセラーになっていた「これからの世界をつくる仲間たちへ」(小学館)をベースに、新型コロナウイルスの影響で「これからの世界」の見通しが変わってきたことを受けて、新書化した。
当初想定されていた「これからの世界」では、「AIをはじめとするデジタル技術の進歩によって、人間がやっていた仕事がどんどん機械に代替されるようになっていき、それに我々が適応していくのは間違いない」ことだったが、コロナ禍でそれが加速し、一方で事態が倒錯してきている。
「機械に仕事を奪われるどころか、すでに人間がシステムに組み込まれた状態になっている場面が見られる」のがその一つ。飲食店から食事を配達するウーバー・イーツがその典型という。「注文や決済など、ほとんどの仕事はサーバー上で自動的にされて、品物を届けるところだけ人間が請け負う。人間が機械を道具として使うのではなく、見方によっては機械が人間を道具として使っていると考えることもできる」と落合さん。
2020年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、多くの企業でテレワークが実施されるなど、「『働き方』について大きな変革を迫られる年」であり、「ヒトとヒトとの『非接触型式インターフェース』の浸透を社会に促した」年という。ウーバ―・イーツもその延長線上にあるといえる。
新型コロナの以前から、コンピューターやインターネットが発達を続け、近年はAI(人工知能)の進化が目覚ましい。そのなかで、人間が直面する命題は「私たちがやるべきことは何か」ということ。「人の物理接触がデジタルに置きかえられるポストコロナもしくはウィズコロナの世界では、それがいっそう問われることなる」。このことが、「これからの世界をつくる仲間たちへ」の新書版刊行の理由だ。
「クリエイティブ・クラス」として生きていくには
囲碁や将棋でAIが人間に勝つようになったころから「いずれ仕事をAIに奪われる」と心配すると人が増え、その通りに進んでいるかのように、2017年ごろからは日本国内でもRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)がブームになっている。
RPAは、ホワイトカラーの定型的なデスクワークをプログラムによって自動化して代行する概念。工場で産業用ロボットがブルーカラーの仕事を代行するのと同じように、オフィスではRPAというソフトウエアのロボットが、それまでホワイトカラーのやっていた作業をこなすようになっている。
「狩猟社会(1.0)」、「農耕社会(2.0)」、「工業社会(3.0)」、「情報社会(4.0)」に続き、いまは、AIやロボットとともに仕事をする「働き方5.0」の時代。
落合さんは、「働き方5.0」の時代の本質は「仕事をAIに奪われる」ということではないと断言。「技能の民主化や自動化によってゆるやかに人材の価値が変化していくことに自覚的であるかどうかが大切。いま人材として価値を高めている『クリエイティブ・クラス』のように、その時代にも重要になる層は間違いなく存在する。その価値の変遷に気付きながら動くか、動かないかが、将来を大きく左右する」と強調する。
「クリエイティブ・クラス」は、機械に代替されにくく、付加価値の高い能力を持つ人材。もともとは米国の社会学者による造語で、創造的な専門性も持つ知的労働者のことを指してそう呼んだ。
本書で落合さんは、コンピューターと人間が複雑に相互作用しながら織りなす社会の中で「クリエイティブ・クラス」として生きていくには、社会とどう向き合うべきなのかを、近未来の姿をビビッドに描きながら熱く語っている。
「働き方5.0 これからの世界をつくる仲間たちへ」
落合陽一著
小学館
税別820円