「鉄道」じゃなかった東急の稼ぎ頭
昨今の大手企業みると、運営する事業が一つだけとは限らない。豊富な資金を活かして、可能性のある新規事業を複数立ち上げたり、他社の事業に投資したりする。本書では、GAFAなどの決算書の検討に入る前にまず、日本の大手企業をモデルに、決算書による企業の実像の見え方を解説している。
モデルは東急。2019年9月に東京急行電鉄から社名を変更したが、イメージとして浸透している鉄道事業のほかに、建設・不動産業や、東急百貨店やSHIBUYA 109などの流通業もあり、幅広い。
東急ばかりでなく、鉄道会社はたいてい事業の多角化によって魅力的な沿線開発を進め、そのエリアの価値を向上させ、より多くの人に住んでもらう戦略を進めている。
住民が増えれば、生活基盤事業が必要になるので、関連事業をさらに展開していくことになる。鉄道会社を分析すると、このように各事業が互いに良い影響を及ぼすシナジー効果が見られるという。
東急の2018年度(当時は東京急行電鉄)の営業収益の構成するのは、主に4事業。そのうちの「稼ぎ頭」は、生活サービス事業の7031億8300万円で、全体の構成比で約58%を占めていた。鉄道事業でも、不動産事業でもなかったのだ。
ところが、この生活サービス事業は営業利益ベースでみると、全体の営業利益のうち21%しかない。本書は「営業収益では高い割合なのにもかかわらず、営業利益の割合が低いということは、人件費などの販管費が他事業よりもかかってしまっているからと予想できる」としている。
生活サービス事業以外の、営業収益の構成する3事業は、交通事業が2136億200万円(構成比18%)、不動産事業が2033億6300万円(同17%)、ホテル・リゾート事業が999億2500万円(同8%)。利益割合は、交通事業が36%、不動産事業39%、ホテル・リゾート事業は4%だった。
多くの人は先入観やイメージに惑わされ、企業の実像を見誤ってしまうことがある。「こういった落とし穴にはまらないために、企業経営を分析するときに決算書を使うことはとても大事なこと」なのだ。
「GAFAの決算書 超エリート企業の利益構造とビジネスモデルがつかめる」
齋藤浩史著
かんき出版
税別1800円