2019年7月の日本の輸出規制以来、1年近く日本製品の不買運動が続き、韓国に進出した日本企業は撤退を余儀なくされるところが出るなど苦境が続いている。
ところが、日本に進出した韓国企業も同じように事業悪化に苦しんでいることがわかった。別に日本で韓国製品のボイコット運動が起こっているという話は聞かないが、因果応報、ブーメランが戻ってきたのだろうか?
韓国紙で読み解くと、 必ずしも日本企業のような「苦境」とは様子が違うようで......。
「日本市場はとても重要、関係悪化でも儲けは出る」
日本に進出している韓国企業が窮地に陥っている様子を、2020年6月26日付の中央日報が「韓日関係の悪化で...日本進出の韓国企業95.7%、『事業が苦境』」の見出しで、こう伝える。
「日本で製造業者を運営するA代表は最近もどかしい思いから夜眠れずにいる。韓国製は中国製よりもコスパがよいため着実に(日本で)一定の市場シェアを維持してきたが、最近需要を中国製品が代わることが大きく増えたためだ。A代表は『日本の顧客が製品のレビューをする際に韓国製を暗黙的に避けているのではないかと心配だ。社内での解決策もなく気をもんでいる』と述べた」
そして、韓国の経営者組織である全国経済人連合会(全経連)の衝撃的な調査結果を、こう報告するのだった。
「凍りついた韓国と日本の関係に新型コロナウイルス感染症による入国制限まで重なり、日本で事業を行う韓国企業の苦境が深刻化している。6月25日、全国経済人連合会によると、駐日韓国企業の95.7%が韓日間の相互入国制限措置で事業に悪影響を受けていることがわかった。6月9~22日に実施したアンケート調査の結果だ。日本は4月3日から新型コロナの感染拡大防止を理由に韓国人の入国を全面的に禁止し、韓国も日本へのビザ免除措置とビザ効力停止などで対抗している」
このため、事業の現場訪問や管理、取引先とのコミュニケーションが難しくなり、専門人材の交流も途絶えているという。とり急ぎオンライン会議を拡大した企業が多かったが、企業4社に3社(77%)は今年(2020年)の売上高が昨年より減少すると予想した。企業の99%は下半期も相互入国制限措置が続けば、ビジネスにマイナスの影響を及ぼすと答えた。
もちろん、コロナの感染拡大だけが日本進出の韓国企業にダメージを与えたわけでない。新型コロナの前に昨年7月、日本の韓国輸出規制により両国関係が悪化の一途をたどったことが大きい。中央日報はこう続ける。
「駐日韓国企業の3社に2社(69.1%)以上が日韓関係の悪化以降、日本国内の事業環境が以前に比べて悪化したと答えた。これは『影響なし』という回答(30.9%)の倍以上であるうえ、『好転した』というゼロだった。それでも日本事業を維持する理由は『日本市場(需要)の重要性』という回答が47.9%と最も高かった。続いて『韓日関係(の悪化)にもかかわらず収益創出が可能』(39.4%)が続いた」
韓国から撤退する日本企業はあるが、逆がないのはなぜ?
日本製品の不買運動によって韓国から撤退を余儀なくされた日本企業は少なくない。日産自動車、オリンパス、オンワード、デサント、GU(ジーユー、ユニクロの姉妹ブランド)、ロイズ(チョコレート)などなど。
しかし、韓国企業が日本から撤退した例はほとんど聞かない。日本ではボイコットコレア運動は起こっていないし、KPOPの「BTS」が日本のオリコン上半期アルバム1位に踊り出たほどだ。これは海外歌手では1984年のマイケル・ジャクソン「スリラー」以来の快挙だ。撤退しない理由の9割近くが「日本は長期的に重要な市場で、関係悪化が続いてもまだまだ収益創出が可能だ」と考えているからだ。
韓国に進出した日本企業で、唯一、例外的に好調な売り上げを維持しているのは、ゲーム「どうぶつの森」が大ブームになっている任天堂くらいだが、日本進出の韓国企業では、「日韓関係の悪化が業績に関係ない」と答えたところが3割以上いることも大きな違いだ。
中央日報は、こう続ける。
「全経連のキム・ボンマン国際協力室長は『両国が相互入国制限の緩和との関係改善のための積極的な努力をすることを願う』と語った。特に、『有効関係を困難にする政治的発言や報道を自制してほしい。日本市場での円滑な事業継続のために日本経済界との交流を維持していく』と強調した。そのための今年下半期に在韓日本大使を招待した会員企業懇談会を準備しており、日本経済団体連合(経団連)と11月6日にアジア域内の民間経済団体の集まり『アジア・ビジネス・サミット』を開催する予定だ」
徴用工問題が破裂したら韓国企業の資産差し押さえも
政治レベルでの日韓交流はすっかり冷え切っているが、経済レベルでは楽観視しているようだ。しかし、そうは問屋が卸すだろうか。徴用工問題では8月4日を期限に、韓国の裁判所が差し押さえた被告企業・日本製鉄の韓国内資産の現金化が迫っている。文在寅(ムン・ジェイン)政権と与党・共に民主党は、現金化は既定路線として日本の報復に備えている。
中央日報(6月25日付)「韓国与党『日本の追加貿易報復を予想...対応策をあらかじめ立てなければ』」が、臨戦態勢をこう報じる。
「日本の強制徴用企業に対して韓国裁判所が韓国内資産の売却手続きに入ることで追加の貿易報復措置が予想されるにつれ、韓国与党と政府が先制的に素材・部品・装備対策を補完・点検していくことにした。共に民主党の金太年(キム・テニョン)院内代表は6月24日、国会で開かれた素材・部品・装備党政点検会議で『日本の追加報復時、措置が速かに取られるようにその間素材・部品・装備対策推進懸案を点検・補完する必要がある。民主党は素材・部品・装備産業の戦略シーズン2を始める』と明らかにした」
日本の報復措置が実行されてから始めるのではなく、可能なシナリオを検討して対応策をあらかじめ立てておくというのだ。では、韓国側は日本がどんな報復に出てくると予想しているのか。
朝鮮日報(6月20日)「コラム:次第に遠ざかる韓日、破局へ向かうのか」で、チョン・グォンヒョン論説委員が悲観的な見通しを、こう述べている。
「日本に『敵に塩を送る』ということわざがある。16世紀の日本では諸大名が乱立して争っていた。そのさなかに宿敵同士だった一方が塩不足に苦しんでいた相手方に塩を送ったというエピソードに由来する。窮地に陥った敵の弱点を狙わず、雅量を示した形だ。(ところが韓国では)慶尚北道慶州市は最近、新型コロナ対策物資の確保に苦しんでいた日本の奈良市に防護服1200セットを支援したところ、大騒ぎになった。『売国奴』という非難が相次いだ」
「塩」を送って敵を助けた行為として「慶州市長を解任せよ」という抗議運動が巻き起こった。「塩」をやりとりするどころか、互いの傷に塩を塗ることがすっかりすっかり定着したと、チョン論説委員は嘆くのだ。
「8月4日が過ぎれば、日本製鉄の資産を現金化することが可能となる。青瓦台(大統領府)と与党内部では資産の売却を既成事実化しているムードだ。支持率の挽回を目指す安倍内閣の事情を考慮すれば、(日本に進出した)韓国企業側の資産差し押さえや関税引き上げといった金融カードを切るかもしれない。輸出規制は『国産化』で乗り切ることができるかもしれないが、金融分野の『国産化』はあり得ない。基軸通貨『円』の発券国(日本)との争いは最初から相手にならない」
チョン論説委員は、日本に進出している韓国企業の資産の差し押さえと、「円」に頼っている韓国経済の破綻を強く憂えるのだった。そして、文大統領の自制を強く求めた。確かに、8月4日に徴用工問題の「爆弾」が爆発したら、日本進出の韓国企業のやや甘い「楽観論」も吹き飛ぶかもしれない。
(福田和郎)