「今日スッピン?」
「いま彼氏と一緒かな?」
「その服可愛いね。いつもそうなの?」
リアルな職場では考えられないストレートなセクハラ発言......。テレワークが進むなか、ウェブ会議などの画面を通じて部下にセクハラやパワハラを行う「テレワーク・ハラスメント」(テレハラ)が横行している。
テレワークに慣れない「オジサン上司」が部下のプライベート生活を垣間見て、抑えが利かなくなる構図が多いようだ。その実態をさぐると――。
「間取りは1K? 部屋に彼氏いるの?」と言われ、殺意を覚えた
テレワーク(リモート)・ハラスメントの問題は、この1、2か月に多くの主要新聞が取り上げている。たとえば――
読売新聞(2020年5月27日付)「テレワークでハラスメント... ビデオ会議、メールで行き違い」
日本経済新聞(5月31日付)「テレワークに潜む『リモハラ』の危険」
毎日新聞(6月24日付)「在宅勤務『テレハラ』深刻 企業に訴訟リスク、保険登場」
などだ。
この中で、読売新聞ではこんな例を紹介している。
「職場のビデオ会議に参加した女性は、男性上司に『カーテンの模様がかわいいね』と言われて不快だった。また、女性が自宅に居る画面を見た(別の)男性が、何も言わずにニヤニヤしていた」
毎日新聞はもっと生々しい例を紹介している。
「女性会社員は、ウェブ会議が終わり画面からの退出が遅れたところ、同じ画面に残っていた男性上司から『俺とウェブ飲みをしたくて残っていたんだろ? 飲んじゃうか』と誘われた。この上司は他にも『今日はスッピンだね』『間取りは1K? その部屋に今彼氏もいるの?』とセクハラ発言を繰り返した。女性は『殺意を覚えた。ふだんからセクハラ発言をする人物だが、ウェブ会議をするようになって拍車がかかった』と憤る」
毎日新聞は、ほかにも男性会社員がウェブ会議の最中に上司から「子どもがうるさい。黙らせろ」と叱責された例を紹介した。子どもはまだ1歳で、妻も在宅勤務中のため、面倒を見られない。仕方なくパソコンをベランダに持って行き、そこでウェブ会議に参加した。男性は「『奥さんは何をやっている!』とまで言われた。共働き世帯に無理解だ」と嘆いたのだった。
テレハラの「3密」は「密会」「密説」「密視」
企業のハラスメント対策を手掛けているダイヤモンド・コンサルティングオフィス(東京都港区)が5月22日、「テレワークにおけるハラスメントの実態調査」を発表した。テレワーク業務で上司とコミュニケーションを取っている会社員110人を対象に、インターネットでアンケート調査した。
すると、テレワークでの上司とのコミュニケーションに不快な気持ちやストレスを感じている部下が78.0%もいることがわかった=上の図表1参照。そのうちの半分以上(全体では41.8%)が「何度も不快な目にあっている」と回答。具体的に、上司のどうような行動にストレスを感じるかを聞くと、こんな答えが返ってきた。
「やたらとweb会議をやりたがる」
「部下を監視する。仕事をサボっていないか、いちいちチェックする」
「こちらに気を使わず頻繁に連絡してくる」
「必要以上にコミュニケーションをとってくる」
「仕事とプライベートを分けられない。こちらの終業後も電話がかかってくる」
「slack(編集部注:チームコミュニケーションツール)上での言葉遣いがきつい
」 「ほとんどメールでのやり取りなので、ニュアンスが正しく伝わらない」
などだ。
テレワークでは、新型コロナ予防の「3密」とは別に、オンライン上の「3密」が問題になるといわれる。
(1)上司が密にテレビ会議を招集したがる「密会」
(2)上司が密に仕事の説明を求める「密説」
(3)上司が密にリモート上でも監視する「密視」
である。
部下と直接対面できないために、これらの「3密」が部下のストレスになっていることに気づかない上司が多いようだ。このため、上司とのコミュニケーションで、ストレスや不快感が出社時よりも増えたかどうかを聞くと、66.4%の人が「ストレスが増えた」と答えた。
上司からの「問題行動」にどんなものがあったかを聞くと(複数回答)、一番多かったのは「常に仕事をしているかの連絡や確認」(46.4%)、ついで「オンラインでのプライベートに関する内容の質問」(40.0%)、「リモートでの会議の場での強いあたりの言動」(23.6%)、「参加したくないリモート飲み会への勧誘」(21.8%)、「不当な残業の指示」(14.5%)などと続く。これらは全部、テレワーク・ハラスメントに該当する。相当多くの人が被害にあっているわけだ。
調査したダイヤモンド・コンサルティングオフィス合同会社代表の倉本祐子さんは、こうコメントしている。
「今回の調査で、テレワークで上司とのコミュニケーションにストレスを感じる部下が約8割、出社時よりストレス等が増えた人が約7割、さらに『チャット上での言葉遣いがきつい』『仕事をサボっていないか監視する』『プライベートに関する質問」をする』といったテレワーク・ハラスメントに該当する行為を受けている人が4割以上存在することが判明しました。今年6月からパワハラ防止法が施行され、企業はこれまでよりも一層力を入れたハラスメント対策が必要です。テレワーク・ハラスメントなどの現代的ハラスメントに対応するためにも、さらなる意識改革が必要です」
「会社のオジサンがビデオミーティングに何度も誘ってくる」
テレワークでは、SlackといったチャットツールやZoomといったテレビ会議ツールを使うことが多く、必然的に私生活を覗かれることになる。このため、リアルな職場ではありえないセクハラ発言を受ける女性が多く、ネット上ではこんな被害の声があふれている。
「上司から『部屋をもっと見せてよー』『在宅で少し太ったんじゃない?』と言われます。これはもうセクハラですよね。不快です」
「会議で開口一番、『自宅同士でつながるのって新鮮だなー』と言われ、プライベートのことに話題が及びました。『家での服装はいつもより派手だけど、そういう趣味なの?』と言われ、職場ではおとなしい人だったのでびっくり。慣れ慣れしいし、何か勘違いされている気がします」
「密室性が高いから2人きりの会話と勘違いしてウキウキしているのかな。バレないと思っているのか。バレなきゃいいと思っているとしたらその思考がキモすぎる」
「在宅勤務になってから会社のオジサンがビデオミーティングに何度も誘ってくる。他にメンバーはいません。顔や部屋が映るので、絶対に参加しませんが。懲りずに今朝も誘ってきた。もうセクハラだと思っています」
「自分は会社のシステムアシスタントやっていますが、女性社員に相談受けます。セクハラTeams会議になるからどうしたらいいでしょうと」
「自分は、職場とほぼ変わらない格好(服装も化粧も)で背景も余計なものが映らないようにしている。生活感が垣間見えると、興味を持たれやすいのは仕方ないから、自衛して『仕事中です!』って雰囲気を出すしかないのでは。ってか、どんな格好で在宅勤務しているの? まさか、どう見ても部屋着みたいなワンマイルウェア(編集部注:駅前のスーパーとかワンマイル=約1.6キロ=以内の距離を出かけるときにピッタリのゆったりした衣服)じゃないよね」
こうした悩みには、こんなアドバイスが相次いだ。
「セクハラおやじはどこで何をやってもセクハラしてくる。リモートのいいところは録画録音できるところなので、『録画録音しています』と予め警告してやりましょう。あとで問題にしてやればいい」
「ぜひキャプチャーソフトをインストールして、動かぬ証拠を残して下さい。で、上司に転送してあげてください。そいつらもグルなら、労基署や弁護士に見せて警告する方法を教えてもらってください。向こうから証拠を提供してくれるのだから、活用しないともったいないです。それが、リモート・セクハラのいいところです」
「アドバイスありがとうございます。一昨日、夜の8時頃メールが来ました。このままエスカレートするようであれば、上司にメールを転送してみます」
(福田和郎)