国際通貨基金(IMF)は2020年6月24日に公表した世界経済見通しで、2020年の世界全体の成長率を、マイナス4.9%(前回4月時点はマイナス3.0%)に引き下げた。
新型コロナウイルス感染拡大に伴う影響で、世界大恐慌(1929年~30年代)以来の最悪の不況と予想した今年4月以上の深刻な「谷」になると分析したのだ。この発表を受けて、6月25日の米ニューヨークや欧州の株式市場は大幅下落。東京株式市場の日経平均株価も下落した。
背景には、IMFの深刻な景気後退予想の大きな原因となった、米国のコロナ感染拡大の状況がある。いったい、米国のコロナ感染はどこまで広がっているのだろうか。海外メディアと国内の主要紙から読み解くと――。
日本でいえば東京、神奈川、大阪がオーバーシュート状態
IMFの「世界経済見通し」は、コロナ感染の第2波のリスクなどから「前代未聞の危機であり、回復も不確実なものになる」と警告している。世界経済はリーマン・ショック時の2009年(マイナス0.1%)をはるかに超える落ち込みとなり、1930年代の世界大恐慌に次ぐ規模の景気後退に陥るという。
なかでも深刻なのが世界経済のけん引役「米国」の落ち込みだ。国・地域別の20年成長率では、新型コロナの感染・死者数が世界最多の米国はマイナス8.0%となり、19年のプラス2.3%から大幅な悪化を予測。大恐慌が起きていた32年のマイナス12.9%や、第2次世界大戦直後だった1946年のマイナス11.6%に次ぐ、深刻な景気後退になるとの見通しを示した=図表参照。
その米国の感染状況はどうなっているのか――。米ジョンズ・ホプキンス大学の調査によると、日本時間6月24日22時時点で、米国の新型コロナウイルスの感染者は234万7102人(死者12万1225人)。いずれも世界1位で、ともに2位のブラジルの2倍以上だった。
米国、日本の株価下落の動きに合わせるように、日本経済新聞は米国で拡大する新型コロナの猛威を特集した。「米コロナ再拡大期 経済優先危うさ露呈 再生産数26州で1超 新規感染ピーク迫る」(2020年6月25日付)という見出しの記事だ。
ちなみに「再生産数」とは、感染の拡大が続くのか、収束するのかを知る物差しとなる数値。「1」を超すと感染が広がっていることを示しており、全米50州の半分以上が感染拡大のさなかにあるわけだ。日本経済新聞は、こう伝える。
「6月23日までの過去1週間で、全米で新たに確認された感染者は1日平均2万8799人。このまま拡大すると4月中旬に記録した新規感染のピーク(3万1千人)を上回りかねない。懸念が高まっているのは散在するホットスポット(一大流行地)だ」
西部アリゾナ州は人口10万人当たりの新規感染者が6月24日に5月末の5倍超に増え、4月に爆発的な流行が起きた東部ニューヨーク州と同じ道をたどり始めた。こういった州がカリフォルニア、テキサス、フロリダ、ルイジアナ...とどんどん増えている。カリフォルニアでは、ウオルト・ディズニーがテーマパークの再開を延期した。特に、カリフォルニア、テキサス、フロリダ3州は人口が1位~3位を占めているから深刻だ。3州を合わせると全米の人口の約3割に達する。日本でいえば、東京都、神奈川県、大阪府がオーバーシュートを起こしているようなものだ。
日本経済新聞は、こう続ける。
「米ハーバード大の研究者などは、アリゾナなど1日の新規感染者が2000人を超える現状では、濃厚接触者の1%しか追及できないと指摘する。多くは見逃したままで流行の拡大は止められない」
しかも、トランプ政権やテキサス、フロリダ州など与党・共和党の知事は、感染拡大防止のための自粛対策より、経済活動重視の姿勢を鮮明にしている。だから日本経済新聞は、こう結ぶのだった。
「経済重視の戦略がうまくいけば『米国が世界一の好経済に戻る』(トランプ氏)シナリオもありうるが、ウイルスが制御不能になって景気への打撃が第1波よりも大きくなるリスクと隣り合わせである」
「暑くなると収束すると言われたが、南部温暖州に拡大中」
米国メディアはより詳しく、かつ厳しく報道している。米CNN(6月24日付)「CDC所長、『米国は新型コロナに屈服』 半分の州で感染者急増」がこう伝える。
「米疾病対策センター(CDC)のロバート・レッドフィールド所長は6月23日、新型コロナが『この国を屈服させた』との見方を示した。議会下院の公聴会で述べた。同所長はまた『たった1つの小さなウイルスのために、米国は約7兆ドル(約746兆円)を支出しなくてはならなくなるだろう』とも強調した」
また、CDCの所長代行を務めた経歴を持つリチャード・ベッサー博士は、CNNの取材に答え、こんな厳しい見方を語った。
「実際のところ自宅待機命令の出ている段階から移行し、検査・追跡・隔離を行う公衆衛生モデルを確立できた州は1つもない。ここまで感染を非常によく抑え込んだ州でも例外ではない。どうすればそうした移行が首尾よく実現できるのかを見極める必要がある。さもないと社会活動を再開したすべての州で、かなり劇的な感染者の増加が起こり、元の木阿弥(もくあみ)になるだろう」
CNNは、こう結んでいる。
「米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は6月23日の公聴会で、対策の目的はあくまでもウイルスの完全な抑え込みであり、感染の勢いを和らげることではないと強調した。そのうえで、もし米国が秋までに新型コロナの感染拡大を封じ込めることができなければ、『事実上、山火事を消して回るような事態になる』と警鐘を鳴らした」
ファウチ所長は、トランプ大統領らの早期経済再開に対して、「パンデミックという地獄をアメリカは見ることになる」と強く反対し続けてきた専門家だ。6月23日付の米金融経済総合ニュース・ブルムバーグの「新型コロナ感染、夏季の沈静化はなさそう-ファウチ氏」という記事で、同紙のインタビューに応じてこう語っている。
「ファウチ氏はインタビューで、フロリダやテキサス、アリゾナなど温暖な諸州で新型コロナ患者の増加が続いていると指摘。『現時点で気候が大きな影響を及ぼしているようには見えない』と述べた。新型コロナの感染拡大の初期には、肺感染症の広がりは暑い季節になると鈍化するといわれ、トランプ大統領は気温上昇とともに流行は終わるとの見方を示していた。だが、米国の状況が沈静化に向かうとの希望は今や消えつつある。サンベルト地帯と呼ばれる米南部諸州で新型コロナの感染拡大が続いている状況から判断すると、夏季の沈静化はなさそうだと、ファウチ所長が語った」
ブルムバーグが、さらに続ける。
「新型コロナ感染状況を追跡するウェブサイトRt.Liveによると、米国の31州で再生産数は1を上回っている。米金融機関モルガン・スタンレーは、米全体の再生産数を1.1と見積もる。この数は52日ごとに感染者が2倍に増えるペースだ。米食品医薬品局(FDA)の前長官、スコット・ゴットリーブ氏はツイッターで、『感染が拡大している諸州にとっては、重要な1週間だ。収束させられるチャンスもある。そのためには、マスク着用と検査、追跡を強く徹底しなければならない』と語った」
マスクは臆病者が着けるもの、義務化した保健局職員に「殺害予告」
マスクの着用など、日本では当たり前の話だが、それが徹底できずにどんどん感染を拡大させる米国の信じられない現状をロイター(6月25日)「カリフォルニア州、コロナ新規感染者が過去最多」が、こう報じる。
「カリフォルニア州のニューソム知事は感染者数の増加について、安全対策を十分に講じていないことが主な要因だと指摘。州全域で外出時のマスク着用を義務付ける新たなルールなど、感染予防のための公衆衛生規則を実施しないと表明している郡などの一部の自治体を批判した。規則に従わない郡にはコロナ対策費用に充てる州からの資金提供を停止すると警告した」
これはいったいどういうことか。米国の調査機関ギャラップが4月に実施した調査では、公共の場所で「常にマスクを着用する」と答えた人は36%しかいなかった。「マスク着用」を嫌がる国民が非常に多い。マスクは「臆病者」がつけるものと思われているのだ。しかも、カリフォルニア州では、オレンジ郡とロサンゼルス郡の2つの自治体で6月、マスク着用を義務化した保健局の職員が「殺害予告」を受け、辞職に追い込まれたあげく、マスク着用令も撤回される騒ぎが起こっているのだ。
ニューソム知事は、こうした郡の首長たちに「命がけでマスク着用を徹底させろ」と迫ったのである。
CNN「米国の新型コロナ、南部と西部で感染拡大 対策無視の若者増える」(6月24日付)も、若者たちの意識の低さをこう嘆く。
「米国内の新型コロナの感染状況について、南部と西部で大幅な伸びが見られることが23日までに明らかになった。当局者によると、これらの地域では、感染予防策の対人距離の確保を実践しない若年層が増加。検査で陽性反応を示す事例が増えている。若年層は感染しても軽症で済むが、高齢者などリスクの高い人々にウイルスを移す可能性が高い」
そして、CNNは専門家のこんな嘆きを紹介している。
「米国での感染はまだ第1波が終わっていない段階とみられる。ミネソタ大学感染症研究政策センターのマイケル・オスターホルム所長は、出演したNBCの番組で新型コロナについて、『山火事に近いものだ。現時点で感染者予備軍が多数いる。夏にかけて、あるいは秋に入っても感染が収まるとは思えない。第1波、第2波、第3波と分かれるのではなく、われわれは感染症というただ1つの、極めて困難な山火事を経験することになる』と語った」
トランプ大統領を「自宅」から締め出すNY圏3知事
こんなありさまでは、米国のコロナ収束もなかなか厳しそうだ。新型コロナウイルスの抑え込みに成功し、経済活動再開の第2段階に踏み出したニューヨーク市でも経済人の動きは慎重だ。米ブルムバーグ(6月25日)「ウォール街、NY再開第2段階でも職場復帰急がず -9月まで待つ社も」は、こう伝えている。
「シティは7月時点でも出社はスタッフの5%にとどまる見込み。JPモルガンもレーバーデー(編集部注:労働者の日。9月の第1月曜日)後まで20%上回る人員を戻す計画ない。――ニューヨーク市は6月22日、経済活動の再開を広げる第2段階に移行した。しかし主要オフィス街の大手企業の多くは社員の職場復帰を急いでいない」
ブルムバーグは、こう続ける。
「週明け6月22日にシティグループ本社ビルに入ったバンカーはわずか数十人だった。1万3000人余りを雇用するシティは7月に入るまで職場復帰を増やさず、その時点でも出社はスタッフの5%にとどまる見込みだ。ロイヤル・バンク・オブ・カナダ(RBC)は1%に満たない17人しか出社していない。米投資会社ブラックストーン・グループは7月になるまでオフィスを開ける予定はない。カーライル・グループは少なくとも9月まで待つようスタッフに伝えた」
これはコロナの感染拡大の様子を、もう少し見極めたいということのようだ。というのは、ニューヨーク州を中心とした3つの州でニューヨーク圏全体をロックダウンして全米の他の感染州から守る動きがあるからだ。ロイター(6月24日付)「NY都市圏3州、訪問者に隔離義務付け コロナ感染急増の8州対象」が、こう伝える。
「米の多くの州で新型コロナ感染者数が急増するなか、ニューヨーク、ニュージャージー、コネチカットの3州の知事は6月24日、感染率が高い州から訪れる人に14日間の自主隔離を義務付けると発表した。ニューヨーク州のクオモ知事によると、アラバマ、アーカンソー、アリゾナ、フロリダ、ノースカロライナ、サウスカロライナ、テキサス、ユタの各州が対象。自主隔離措置は6月25日から実施され、初回の違反には1000ドル、違反が繰り返された場合は5000ドルの罰金が課される」
という厳しいものだ。
ちなみに3州の知事はすべて民主党。さっそくトランプ大統領が激怒した。ホワイトハウスのディアー報道官が「トランプ大統領には同措置は適用されない」とコメントした。大統領は民間人ではなく、周囲のスタッフはすべてウイルス検査で陰性が確認されているというわけだ。トランプ大統領は対象州のアリゾナ州から戻ったばかりだし、自宅のトランプ・タワーがニューヨーク市にあるからだ。
(福田和郎)