マイナンバーカードをスマートフォンや運転免許証と一体化する動きが加速している。いっこうに進まないマイナンバーの取得に業を煮やした政府が2020年6月23日、大学教授ら有識者を集めた作業部会を開き、普及策の検討を始めたのだ。
その中には、運転免許証を廃止してスマホに替えるという極論まで俎上にのぼっているという。
ネット上では「個人情報の漏えいにつながる。新型コロナのどさくさにまぎれて、やりすぎだ」と反対する声のほうが圧倒的に多い。政府はいったいなぜそこまでやろうとしているのか。主要新聞の6月24日付朝刊とネットの声から読み解くと――。
学校で子どもの成績記録や健康診断にも活用?
マイナンバーカードとスマートフォンや運転免許証との一体化が急浮上した背景には、今年5月、国民1人あたり10万円の定額給付金を支給する際、マイナンバーのオンライン業務が大混乱をきたし、給付金の支給が大幅に遅れたことがある。行政の迅速化を進めるには、デジタル化が欠かせず、そのためにはマイナンバーの普及が喫緊の課題だというわけだ。
しかし、マイナンバーは制度が始まって4年も経つのに普及が進んでいない。総務省によると、6月1日時点でカードを持っている人は国民の16.8%にとどまる。政府は6月23日、作業部会の初会合を開き、マイナンバーカードの普及策の検討を始めた。年内に工程表をまとめる予定だ。
6月24日付の主要新聞の報道によると、政府が検討する普及策は主に次の5項目だ。
(1)運転免許証などさまざまな国家資格証をカードと一体化させ、デジタル化を進める。外国人の在留カードとの一体化も図る(具体的な仕組みは今後検討)。
(2)マイナンバーカードの機能をスマートフォンと連携させて、一体化を図る。
(3)子どもたちへの普及を進めるために、学校での健康診断結果や学習記録のデータ管理など、教育現場での活用を図る。
(4)すでに2021年3月末からカードを健康保険証として利用できるようにすることが決まっているが、ほかにもさまざまな用途を拡大して、行政のオンライン化を進める。
(5)自治体ごとにまちまちだったカードの規格を標準化する。システムの不具合を解消するため、カードを管理する地方公共団体情報システム機構の体制を強化する。
政府がこの中でも特に重視しているのが(1)と(2)だ。マイナンバーカードの運転免許証とスマホとの一体化が実現できれば、「利便性が大いに高まり、一気に普及する」というわけだ。
これ以外にも今年9月からは、買い物などに応じて最大5000円分の「マイナポイント」をカード保有者に還元する消費活性化策も始まる。マイナポイントはキャッシュレス決済とマイナンバーカード、2つの普及を狙った官製の一大ポイント還元キャンペーン。国の予算約2500億円を投入、1人2万円分のチャージや決済に対して、最大5000円分のポイントを付与する。4人家族なら2万円相当。上限があるとはいえ、還元率にして25%の大盤振る舞いだ=イラスト参照。
こうした政府の音頭取りに対して、新聞各紙は冷ややかだ。毎日新聞(6月24日付)「マイナンバーカード普及 コロナに便乗 政府『便利』強調」は今後の課題を、こう指摘する。
「これまで普及が進まなかった背景には、個人情報の漏えいや行政による情報管理に対する国民の不安がある。政府が2018年10月に実施したマイナンバー制度に関する世論調査では、カードを取得しない理由(複数回答)で最も多かったのは『必要性が感じられない』(57.6%)、『身分証明書は他にある』(42.2%)、『個人情報の漏えいが心配』(26.9%)、『紛失や盗難が心配』(24.9%)と続いた。政府は利便性をアピールするが、国民の理解をどう得るかが課題となる」
肝心の国家公務員のマイナンバー取得は6割以下
朝日新聞は、足元の国家公務員の間でもマイナンバーの取得が進んでいないではないかと、皮肉を効かせた記事を掲載した。「政府、一斉取得呼びかけも...国家公務員のカード取得率58%」(6月24日付)が、こう報じる。
「国家公務員約53万人のマイナンバー取得率(申請中含む)が、今年3月末の時点で58.2%だったことがわかった。国民の取得が進まない中で、政府はまず足元の公務員に昨年度中の『一斉取得』を呼びかけていたが、集計した財務省は『新型コロナウイルスの影響もあったためか、想定を下回る結果となった』としている」
朝日新聞は、各省庁・機関の取得率をまとめた文書を入手した。100%を達成したのは会計検査院など4機関。また当然とはいえ、カード事業を所管する総務省や政策を主導する内閣府など9機関も90%以上をクリアした。しかし、最も悪かったのは厚生労働省の48.4%、次いで防衛省の49.7%で、ともに5割を下回った。特に、厚生労働省は来年から始まる健康保険とカードを一体化させる事業の中心になるはずなのに、半分以下でいいのか。
朝日新聞は、こう結んでいる。
「(集計をまとめた)財務省給与共済課は『マイナンバーカードを利用した入退館ゲートの設置など、カード取得率向上の取り組みを進めたい』としている」
マイナンバーカードを持たない公務員は職場に入れないようにする強硬手段に出るというわけだ。
強硬手段といえば、運転免許証とマイナンバーカードの一体化についても、かなり強引な方法が検討されていることを東京新聞(6月24日付)「運転免許と一体化検討へ マイナンバーカード普及狙う」が、こう伝える。
「一体化の手法は複数ある。『既存の運転免許証は将来的に廃止し、免許更新時にマイナンバーカードに切り替える』『既存の運転免許証は残したまま、カードに免許証の機能を追加する』などだ。既存の免許証を残したままだとカードの新規取得は進まないとみられ、作業部会での大きな論点となりそうだ」
携帯会社の情報漏えいが多発しているのに丸投げか?
ネット上では、特にスマホとの一体化を図るという点に、批判の声が集中した。
「マイナンバーであろうが、運転免許証であろうが、本人の認証という仕組は、理想的にはカードやスマホなどの道具を使うことなく、望む相手にだけ示せればよいことだ。しかし、それは詐称の問題もあり難しい。そこでほとんどの人がスマホを肌身離さず持っているから、スマホに認証機能を集約させると利便性があがるというのはわかる。しかし、どうやって安全性を担保するのか。また、安全性を担保できたとして、そこに本人のデータを集約させるかどうかの選択は個人に任せるべきだ」
「コロナに乗じてなりふり構わずマイナンバーを普及させようとする方策に呆れるばかりだ。そもそもマイナンバーは『絶対に他人に知られてはいけない番号』として導入された一生変わらない個人番号ではないか。それを本人確認のたびに提示する証明書として携帯したり、運転時に絶対必須な免許証と一体化させたりすると、さらなる個人情報流出へとつながることは間違いない」
「国民の極秘の、誰にも渡さない、教えない、そして会社には社員のマイナンバー管理に罰則規定まで設けるほど一番大事な『マイナンバー』の管理をスマホの民間企業に丸投げですか? マジ? NTTドコモやソフトバンクなどの携帯会社の情報漏れ事件が何度も報じられているじゃないですか。こちらのマイナンバーカードは、キッチンの冷蔵庫のドアにマグネットで貼っています。それは一番安全な場所です。どうせ確定申告以外に一度使ったこともないないカードですから、スマホに移すなんて、ノー・サンキュー!」
「こないだの電通に丸投げの発注でも、経済産業省は委託業務の管理体制やどこまで下請け発注されているかをまったく把握していなかった。そんな人たちに大事な個人情報は任せられません」
ガラケーも持っていない父はどうするのですか?
スマホはハッキングされやすく、非常に危険だという指摘が多かった。
「利便性が高まると、ひと口に言われましてもですねって感じ。現状マイナンバーカード持ってなくても何も困ってないのに。スマホと一体化したらハッキングされまくりそうだ。次から次へとハッカーが新しい手法で個人情報を取りにきているのにどう対応してくれるのか?」
「スマホは怖いです。先日、ハッキングされてAmazonプライムを勝手に使われていました。Amazonがちゃんと対応してくれたので実害はありませんでしたが、どうやってハッキングされたかいまだわかりません」
また、こんな心配の声も。
「スマホ持っていない人はどうするの? うちの父は、免許証は持っていますがガラケーも持っていません。国が携帯代を出してくれるのでしょうか」
「携帯番号を変えたり、機種を変えたりする時も面倒そう。いちいち役所に行って、いろいろな手続き変更が必要になりそう」
そして、今回のマイナンバーにさまざまな機能を紐づけすることに関しては、根本的な疑問の声が多かった。
「現時点ですら満足にマイナンバーの運用、活用ができないのだから、付け焼き刃みたいなことをする前に、天才プログラマーの登大遊さん(編集部注:のぼり・だいゆう氏。ITベンチャーのソフトイーサの設立者。現在筑波大学国際産学連携本部准教授)のような日本のITの精鋭を集めて、システムのグランドデザインからきっちりやらないと安心して個人データなんて預けられないでしょ」
「マイナンバーカードはすでに民間に委託されているので、さらに健康保険証や免許証、銀行口座との紐づけは危険です。民間を完全排除して国が管理するシステムを構築すべきです。本来ならそれ専用の省庁を編成すべき案件です。国民のデータを一元化するには国が責任を持って管理できないのなら、この制度は諦めるべきです。あまりにもずさん」
「総理大臣はじめ閣僚自体がITを理解していないし、官僚組織と民間が簡単に癒着するので国民が政策自体を信用していない。こんな環境でデジタル化を進めても、データ漏えいや税金の無駄が溢れ返ることが目に見えている。まずは、政治と行政をクリーンにして国民の信頼を回復することが先決」
「最初にマイナンバーを使ってどのようなサービスが出来るか、そのロードマップ作ってからサービス単位に提供する形態を考えるべきでしたね。やっつけ仕事的に番号だけつけて、それから考えるという進め方が根本的におかしいです。何に使えるのか曖昧のままきて、どのようなメリット、デメリットがあるのかさっぱり説明されてない。『抜本的改善』と言われても反応薄いのは当然だよ」
(福田和郎)