株式投資で「勝つ」には、株価が安いときに買って、高いときに売ればいい。そんなことは株を買わない人だって知っているのだろうけど、それができないから、損をする。
「株を買うより時を買え」
という相場格言がある。日本証券業協会の相場格言集の「売買のコツと心得編」では、「投資対象の選択が重要でないというわけではない。それよりも投資の時期を選ぶことのほうがはるかに大切だという教えである」と説明している。
投資にとって、なによりも大事なのは、タイミングなのだ。
ああ...... 「あの時、買っていれば」「慌てて売らなければ」
新型コロナウイルスの感染拡大は「第2波」が懸念され、その警戒感から株式市場も予断を許さない状況が続いている。それもあって、世界の株価が大きく変動している今こそ、「時を買ってみる」のもいいのではないか。
「株を買うより時を買え」について、日証協の相場格言の説明には、
「天災などのような突発事件に見舞われたとき、その株はたいてい売り込まれる。だが、企業基盤がしっかりしてさえすれば、短時日のうちに復旧する。そこで『天災は買い向かえ』『突発事件は売るな』という格言が生きてくる」
とも書かれている。
日経平均株価は、米ニューヨーク株式市場でダウ平均株価が急落した翌日の3月19日(取引時間内)に、1万6358円19銭まで急落。年初来安値を付けた。その後、外出自粛要請がはじまり、4月に政府が緊急事態を宣言すると、経済活動はほぼ止まった。
それが3か月後の6月19日には終値で2万2478円79銭にまで回復した。じつに37.4%も上昇していることになる。
「あの時、買っていたら......」
「慌てて売ってしまった......」
である。
そんな中でも、注目したい銘柄がある。「アサヒビール」の、アサヒグループホールディングス(GHD)だ。2020年のアサヒビール株の推移をみると、3月19日に3006円(前年同日の株価は4728円)の年初来安値を記録し、前年同日の株価を1722円(下落率にして36.4%)下回っていた。
新型コロナウイルスの発生源である中国での沈静化と共に、特効薬の開発、研究の企業間協力や、先進国が経済対策として財政出動や金融政策などを推進することにより、6月19日現在4039円(前年同日は5001円)と962円、下落率にすると36.4%から19.2%の下落まで戻している。
新型コロナ感染「第2波」に備える
本来、ビールは、シーズンストックにあげられ、冬場の株価が安い非需要期に仕入れて(買って)、夏場にかけて需要が高まる時期(5~6月頃)に売却して利益を上げる業種といわれている。
中国に端を発した「新型コロナウイルス」は先進国をはじめ、多くの国で感染のピークは過ぎたように見える。しかし、感染が収束したと見られていた中国・北京で感染者が増加したことを受け、「第2波」への警戒感が高まっている。
世界各国は人の移動を止めることで、経済活動をストップさせても、感染拡大を食い止めてきた。特効薬のない状況下で、これまでに経験したことのない対応を迫られている。こうした状況のなか、「3密」を避けるために夜の宴会も自粛され、シーズンを迎えても、業務用ビールの需要は大幅減となっている。
6月3日のアサヒGHDの2020年1~3月期の決算発表を受けて、翌4日付の日本経済新聞「回復を探る。コロナ禍と財務」の記事で、勝木敦志CFO(最高財務責任者)がコロナ問題の見通しについて、こんなコメントを寄せていた。
「最低3つのシナリオを考えている。第2波にさほど勢いがないとするメインシナリオでは、9月には収束の気配が見えるだろう」
「ただ、コロナ前の状態には完全に戻らないだろう。高付加価値ブランドを中心にグローバルで価値を創造しようとする弊社の戦略は、受け入れられるはずで、デジタルも活用しながら商品開発やバリューチェーンを変革して行きたい」
銘柄選びのポイントは、「企業の基本戦略がわかりやすいことと、その戦略が投資家の納得を得られること」にあると思う。アサヒビールは、企業基盤がしっかりしている会社だ。新型コロナウイルスの感染「第2波」が到来したとき、アサヒビール株が3800~3900円まで下げることがあれば、今後1~2年先を見据えて、買ってもいいかな、と考えている。(石井治彦)
【アサヒグループホールディングス(2502)】
年初来高値 2020年2月12日 5200円
年初来安値 2020年3月19日 3006円
直近 終値 2020年6月23日 4031円
プロフィール
石井治彦(いしい・はるひこ)
投資歴29年。「現物株式取引」と「長期投資」が基本姿勢。情報源はもっぱら会社四季報や日本経済新聞、経済誌など。また、株主総会やIR説明会には、できるだけ顔を出すようにしている。
東京都出身、73歳。