企業がSDGs経営を進めるにしたがって、より専門的な知識とそれを裏付けるエビデンスが必要となってくる。その際にはNGO(非政府組織)、NPO法人(特定非営利活動法人)が持つ知識や情報が大きな「戦力」となるのは言うまでもない。
今回は、企業が求めるゴール、ターゲットに対して連携のできるしっかりした考えの持つ、NGO、NPOとのつながりをどのように持てばよいのか。また、そのメリットについて、国内外のNGO、NPOに詳しい「NPO法人 泉京・垂井(せんと・たるい)」の副代表理事である神田浩史氏に、企業とNGO、NPOとの協働について話を聞いた。
183か国、2万4000人が参加した「世界水フォーラム」
清水一守学長 国内外のNGO、NPOにお詳しいと聞きました。どのような経緯でつながりができたのでしょうか――。
神田浩史氏「大学を卒業後、開発コンサルタントの企業に勤務し、タンザニア、ナイジェリア、バングラデシュなどでODA(政府開発援助」の農業開発事業に従事。企業を退職後は、主に東南アジア各地の地域づくりの現場の調査研究などで日本政府の国際協力やODA政策策定に携わった経緯があるのと、2003年に京都で開催された183か国、2万4000人が参加した『世界水フォーラム』で、事務局次長として、国内外のNGO、NPOとの窓口になったのが大きなきっかけだったと思います。
『世界水フォーラム』では、特に開催前は参加の呼びかけを、国内外のさまざまな団体に向けてしていましたからね。また、1990年ごろから全国各地の行政や大学、団体からの講演依頼があり、多い時で年間100講演をこなしていましたから、その際に知り合った団体とのつながりも次第に多くなってきました。それにより、全国の主だった団体とのつながりができました」
清水学長 SDGsを進めるうえで、今後NGO、NPOとの協働が重要になってくると思います。その点について、どのように考えていますか――。
神田氏「企業がSDGsを進めるにあたり、一番神経を尖らせるところは『SDGsウォッシュ』(=SDGsの本質や狙いを理解せずに実態を伴わないビジネスを進める、見せかけのSDGs活動のこと)でしょうね。SDGsのゴールに向けて取り組んでいることが、知らず知らずのうちに企業活動と相反する活動になっていることがあります。そうなると企業イメージが悪くなり、株価にも影響を与えかねません。そのようなウォッシュ対策としてNGO、NPOの意見が重要になってきます。 持続可能な開発目標の三つの側面のうちの社会的側面と、環境的側面においての専門的な意見を得ることが、目標に向けた道筋を見出しやすくなるのではないでしょうか。また、企業の取り組みに対しての第三者意見として評価ができるということも利点ですね。それと情報化時代の中で欲しい情報が得やすくなっているとはいえ、NPO、NGOだからこそ入ってくる情報があります。企業にはあまり伝わってこない情報がありますから、それらを知ることはマイナスではないと思います。それに、社会課題に対して見たくないものは見ない、聞きたくないものは聞かないとする企業もありますよね。企業の状態を理解したうえで、うまく仲介することができるNGO、NPOも多くありますから、活用しない手はないですね」
清水学長 「SDGsウォッシュ対策」で第三者意見を得られるのは心強いですね。一方で、企業がNGO、NPOの活動に参加することも大事だと思いますが、その点はいかがでしょうか――。
神田氏「そうですね。企業とNPOの連携が重要と肌で感じたのは、『世界水フォーラム』で、全日本水道労働組合や全日本自治団体労働組合に所属の若い方々が、仕事関係者との関わりだけの毎日から、市民活動に参加したことで、利益追求だけではなく市民社会との連携が企業活動にとって必要と感じ、その重要性が組合活動にも波及したこと。そして、若い人たちが積極的に組合活動に参加しはじめ、組合が開かれたものとなり、組合員の士気が上がり、以来NGOとの連携ができているとの報告を受けたときでした。そのようなこともあり、現在、『NPO法人 泉京・垂井』では企業の新人社員研修として、ボランティアへの参加や、環境活動を通して企業活動と社会活動が密接に関係していることを体感するカリキュラムを実践しています」