「年利に換算すると、なんと1400%!」というトンデモナイ暴利。ヤミ金全盛時代でも滅多にお目にかかれなかった荒っぽい手口の貸金業、「給料ファクタリング」が横行している。
コロナ禍などによって資金繰りに困っている人たちの取り立て被害が急増しているため、国民生活センターが2020年6月12日、注意を呼びかけた。聞きなれない名前だが、いったいどんな手口なのか――。
給料を債権にして金を融通してもらう仕組みだが...
ファクタリング(Factoring)とは、企業から売掛債権を買い取り、資金を用立てる金融サービスのこと。企業にとっては売掛債権の早期現金化が可能となる便利な仕組みだ。それがどうして「ヤミ金」になるのか。
仕組みはこうだ。利用者は給料を受け取る権利(債権)を給料日前に、手数料を引かれて額面より安く業者に売り、現金を入手する。給料の受け取り後、額面通りの現金(給料と同額)を業者に支払い、債権を買い戻す。実質的には、安くした分(=手数料)を利子にして業者から金を借りたのと同じ構図だ=図1参照。
これのどこが問題なのか――。「給料ファクタリング業者」は「債権の買い取りなので金銭の貸し付けではない」として、「手数料」という名目で貸金業の利率の上限(年15~20%)を無視するトンデモナイ額の実質的な金利を取り立てるわけだ。
国民生活センターが発表した「給与のファクタリングと称するヤミ金に注意!」という呼びかけによると、「借金ではないのでご安心を」「ブラックOKです」(編集部注・多重債務などで金融機関のブラックリストに載り、借りられない人)などという宣伝につられて利用し、高額な手数料を請求されたり、強引な取り立てを受けたりするケースが後を絶たない。
たとえば、次のような事例だ。
【事例1】子どもの治療費が必要になり、「借金ではない」という給料ファクタリング業者から借りたら勤務先にも取り立てられた
子どもがケガをして急に高額な治療費が必要になり、インターネットで検索して簡単にお金を用立てることができる給料ファクタリング業者に電話をした。7万円を手渡しで受け取り、次の給料日に12万円を銀行振込で返済する予定だった。業者は「給料を債権として買い取っているので、金銭貸借ではない。金利ではなく手数料だ」と言った。期日の前日に業者から電話があり「明日の何時に振り込むか」と聞かれたので予定時刻を答えた。しかし、その後すぐに事業者から勤務先にまで電話がかかってきて、大騒ぎになった。期日に遅れたわけではないのにとても困っている。まだ返済していないが、年利を計算すると700%以上になるので違法ではないか。(40歳代、男性)
勤め先や家族にもおよぶ怖~い取り立て
【事例2】「ブラックOK」の給料ファクタリング業者から毎月借りているが、返済日の変更を申し出たら凄んだ口調で拒否された
多重債務で新たな借り入れができないため、ブラックリストに載っていても借り入れできる所を検索し、「ブラックもOK」という業者に申し込んだ。5万5000円の借入に対し手数料を引かれ4万2000円が振り込まれ、毎月の給料日に5万5000円を返済している。給料日が変更になったので返済日を変更してほしいと申し出たら、「うちは貸金業じゃない。返済日は変更できない。期日に払ってもらう」と怖い口調で言われた。勤務先に電話されると困るのでヤミ金から借りて払うしかない。(60歳代、女性)
【事例3】失業して給料ファクタリング業者と契約したが家族へ執拗に取り立てられている
失業して生活に困窮したため、インターネット広告で簡単融資をうたう給料ファクタリング業者へ連絡した。給料債権を譲渡するシステムと説明を受けたが、5万円を申し込んだのに実際に振り込まれたのは手数料を引かれて3万円。次の給料日には5万円を返済しなければならないが、手数料が高額で返済できない。執拗な取り立ての電話が家族全員にくるようになった。(20歳代、男性)
【事例4】給料ファクタリング業者と契約したが、返済遅延をしたら強引な取り立てを受けた
延滞歴があり借り入れができないため、「毎月の給料を債権として買い取る」とうたう業者に連絡、給料の売買契約を交わした。必要な額を申し出ると手数料を差し引いて入金されるシステムだ。1か月前に5万7000円分の申し込みをしたら、2万円の手数料を引かれて3万7000円が入金された。返済できず「少し待って欲しい」と伝えたところ、「親の所へ回収に行く」と荒い口調で言われ強引な取り立てを受けた。(20歳代、男性)
【事例5】ギャンブル依存症の息子が給料ファクタリング業者から借金した
息子はギャンブル依存症で、任意整理の返済や家族の養育費等を支払い続けなくてはいけないのに、給料ファクタリングという手法をつかうヤミ金融業者から借金した。4万6000円を借りて翌月6万円返済するというものだ。どうすればよいのか。(50歳代、男性)
【事例6】新型コロナの影響で収入が減り、融資を受けたが不審だ
新型コロナの影響で仕事が減り、生活費のためネットで検索、「借金せず現金化」「お勤めの方向けの資金調達サービス」という給料ファクタリング業者に融資を申し込んだ。「債権譲渡契約書」がメールで送られてきた。業者には運転免許証、健康保険証、給料明細書等の写真をメールで送り、家族の名前や住所と電話番号、勤務先も伝えた。5万円を申し込むと手数料20%が引かれた4万円が振り込まれた。しかし、返済方法について業者から「銀行トラブルがあり、口座振込ではなく現金書留で5万円を送るように」と言われ、不審である。(30歳代、男性)
無登録の給与ファクタリングは「ヤミ金」と思え!
いずれも法外に高い手数料であることが特徴で、全国各地で被害者が裁判に訴える動きが起こっている。産経新聞(5月13日付オンライン版)「給与担保に資金融通、業者を初の集団提訴」が、こう伝えている。
「給料ファクタリングは違法な貸し付けで契約も無効だとして、利用者9人が5月13日、都内の業者に計約430万円の返還を求める訴訟を東京地裁に起こした。訴状によると、業者側は多重債務者らを対象に取引。3万8000円を融通した数日後に6万円を回収するなど実質年利は最大1400%以上に及び、原告側は『違法なヤミ金融と変わりない』と主張している」
会見した原告の50代男性は「一度手をつけると、自転車操業のようになってやめられなかった」と話した。弁護団は「新型コロナウイルスの影響で生活が苦しくても、利用すれば破綻するので絶対に手を出さないでほしい」と訴えたという。
国民生活センターは、次のように注意を呼びかけている。
(1)ファクタリング(債権買取)と称していても借金と同じ。給料ファクタリング業者に「貸し付け(借金)に当たらない」と説明されても信じてはいけない。
今年3月、金融庁も「給料ファクタリング業者は貸金業法上の貸金業にあたる」という見解を発表した=図2参照。無登録で給与ファクタリングを業として行う者はヤミ金だから、利用するのは絶対にやめること。
(2)年率換算で数百%~1000%もの高額な手数料を請求されるのは違法である。給料ファクタリング業者に「利息でなく手数料」と説明されても、実態は利息と同じ。貸金業の上限金利は貸金業法や出資法で定められており、例えば、出資法の上限金利(年 20%)を超える金利は刑事罰の対象となる。
(3)勤務先や家族への強引な取り立てが発生している。困っている場合は、自治体の多重債務相談窓口や消費生活センターなどに相談しよう。
もちろん、ファクタリング業者には、企業向けの「本物」のファクタリング業者も存在する。こうした「本物」の事業業者らでつくる「日本ファクタリング業協会」(東京都中央区日本橋、吉野利夫理事長)にも、2019年5月ごろから誤って被害相談が殺到。とんだトバッチリを受けた。
協会ではホームページ上に、「ファクタリング被害110番」という情報コーナーをつくり、全国の被害の実例や訴訟の動き、ファクタリングの本当の仕組みなどを、紹介している。
(福田和郎)