「えっ、テレワークが時間外労働に入らない?!」 三菱自動車「過労自殺」でわかった在宅勤務の罠 どうすれば身を守れるか、労基署を直撃した

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   電通、三菱電機...... そして三菱自動車工業。またも日本を代表する大企業で過労死事件が起こった。

   月に140時間近くの時間外労働で追い詰められた三菱自動車の社員が自殺したことで、労働基準監督署から「労災認定」を受けたのだ。

   しかし、遺族側は「140時間以上の時間外労働があった」と主張する。自宅でテレワークしていたのに、その分の時間は労基署から労働時間に算定されなかったという。これはテレワークが推奨されている現在、ゆゆしき大問題だ。J-CASTニュース会社ウォッチ編集部が、労基署を取材した。

  • その在宅ワーク、労働時間に入っていないかも(写真はイメージ)
    その在宅ワーク、労働時間に入っていないかも(写真はイメージ)
  • その在宅ワーク、労働時間に入っていないかも(写真はイメージ)

過労死ラインの月80時間を超える139時間もの時間外

   2020年6月18日付の主要新聞朝刊の報道によると、三菱自動車工業の課長職相当の男性(当時47)が会社の寮で自殺したのは、長時間労働による精神疾患が原因だったとして、三田労働基準監督署が5月28日付で労働災害(過労自殺)と認定した。遺族と代理人弁護士が6月17日、東京・霞が関の厚生労働省記者クラブで会見を開いて公表した。

   亡くなった男性は1993年、新卒で三菱自動車に入社。長年エンジニアとして商品開発に携わっていたが、2018年1月からはそれまで経験のなかった商品企画を担当するようになった。提携した日産自動車と共同開発した新型軽自動車の発売を控え、担当マネージャーとして販売店への説明会などの業務に追われた。

   遺族側の説明によると、三菱自動車と日産自動車の板ばさみになって強いストレスを抱えていた。男性は単身赴任先の寮に入っていたが、平日夜も寮内で会社のノートパソコンを使って仕事をしていた。土日は関東地方の家族が住む自宅に帰ったが、そのときも自宅近くの図書館でテレワークをしていた。2019年2月、男性は「うつ」を発症、会社の寮で自ら命を絶った。

   男性は、健康管理のため会社の健康保険組合から支給されたスマートウォッチを常に腕に装着。アプリには睡眠時間が記録されていた。発病前1か月のうち、睡眠時間が6時間を満たない日が22日間あり、さらにこのうち5時間未満の日が16日間あった。約2時間半という日もあった。

   一方、社員の過労自殺について、三菱自動車工業広報部は6月18日、J-CASTニュース会社ウォッチ編集部の電話取材に対し、

「社員が亡くなったことは重く受け止めております。現在、詳細について確認しております」

とコメントした。

労基署が認定、時間外労働にテレワーク分が含まれない

悩まないで労働団体、弁護士に相談しよう(写真はイメージ)
悩まないで労働団体、弁護士に相談しよう(写真はイメージ)

   労基署は、発症の直前1か月の時間外労働が(過労死ラインの月80時間を超えて)139時間に及び、精神疾患を引き起こしたと認定したのだ。

   しかし、朝日新聞(6月18日付)「三菱自社員が『過労自殺』労災認定 土日・社外で仕事」によると、時間外労働はもっと多かった可能性があると指摘する。

「代理人の川人博弁護士によると、労基署が認定した時間外労働には、遺族側が主張したテレワーク分はほぼ含まれなかった。川人弁護士は、上司から具体的な仕事の命令があって客観的成果がわかる場合を除き、自宅などの職場外での仕事は、労働時間として認められにくい面があるのではないか。そのため、いま新型コロナウイルス対策でテレワークが推進されていることにも警鐘を鳴らした」

というのだ。さらに、朝日新聞はこう続ける。

「労働政策研究・研修機構の働き手への調査によると、テレワークのデメリットは『仕事と仕事以外の切り分けが難しい』『長時間労働になりやすい』の順に多かった。川人弁護士は『(テレワークで)長時間労働が生じる危険性がいっそう高まっている。労災認定の現場では、残業時間として認められないおそれがある。経営者は、自宅での長時間労働が発生しないように、労務管理をしっかり行うべきだ』と呼びかけた」

   このニュースについて、ネット上ではこんな声があふれた。

   労働相談が中心のNPO法人POSSE(ポッセ)代表で雇用・労働政策研究者の今野晴貴氏は、こう書いた。

「2014年に過労死等防止対策推進法が成立したが、過労死は一向になくなっていない。毎年200人ほどが国から過労死と認定され、昨年度は158人であった。背後にあるのは際限のない長時間労働だ。最近ではコロナ対策に従事している医療関係者や行政職員が、過労死ラインの月80時間を超える残業に従事している。ほとんどの過労死遺族は会社から証拠隠滅などを受け、労災申請を『邪魔』されており、長時間労働を証明できずに労災認定を受けられないでいる。報道で明らかになるケースは、あくまで氷山の一角だ。『過労死かもしれない』と思ったら、すぐにNPOや労働組合、弁護士に相談してほしい」

   こんな声もある。

「今までで数度だけだが、月100時間超えの時間外労働を経験したことがある。若かったがマジで身も心もボロボロになった。130時間以上なんて、正気の沙汰じゃない。亡くなった方が気の毒でならない。そこまでして働かないといけないのなら、働かせる会社や世の中のほうが間違っている」

   さらにテレワークに関しては、こんな意見もあった。

「正直、家で仕事しているほうが、成果がきちんと見えてしまうので時間なんて関係なくなるね。会社で周りに頼んでいた仕事だって、全部自分で提出できるところまで作らなきゃならない。結果を出すまで時間がかかるのは個人の能力でしかない。誰も自分を注意してくれる人が家にいない。在宅勤務だと、長時間勤務をしているという考え自体がなくなっていく気がする」

在宅ワーク時間の「点と線」を埋める裏付けが必要だ

   J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では6月18日、自殺した三菱自動車社員の労災認定を行った三田労働基準監督署労災課の担当者に、「なぜテレワーク部分の時間外労働を認めなかったのか」と電話で取材した。

   「労基署としては個別の案件については答えられない」というので、一般論として、労基署がテレワーク中の労働時間の認定を、どう行っているのか聞いた。

――私も現在1か月近くテレワークを行なっています。もし、私がかなり長時間在宅ワークを行い、それによって体調を崩して会社を訴えた場合、私は時間外労働の時間を、どう証明したらよいのでしょうか。

担当者「まずあなたが主張する労働時間と、会社が把握しているあなたの労働時間の双方の主張を確認します。両方の時間が一致している部分は問題ありませんが、乖離している部分の時間が問題になります。会社があなたの労働時間として認めない時間帯に、あなたが具体的にどんな作業を何時から何時までやっていたのか、詳しく聞いて裏付けを取ります」

――その場合の裏付けとは何ですか。

担当者「まず会社から何時から何時までの間に何をやれという具体的な業務の指示があったのかどうかがポイントになります。また、その仕事の成果として何が残っているのか、『成果物』の有無も重要です。仕事でメールのやり取りがあってリアルタイムに仕事をやっていたと証明ができるか、などです。特に会社からの指示の有無はとても重要です」

――なるほど。他には何が重要ですか。

担当者「メールはあくまで時間の『点』の証明にしかなりません。メールとメールとの間に『線』として、ずっと継続して仕事をしていたという裏付けがあるといいのですが。たとえば、オンライン会議にずうっと参加していたと同僚が証明するとか。パソコンで作業していた時間を証明できるようなものがあるといいのですね」

――それはたとえば、どういうものですか。

担当者「そのようなものがあるかどうかは知りませんが、入力作業の内容、時間をすべてログイン、ログオフとして記録されるシステム、ソフトのようなものを自分のパソコンに入れておくといいかもしれません。それと何時から何時まで何をやったかと詳細に記録しておく仕事管理表のようなものも大事でしょう」

(編集部注:じつは、過労自殺した男性の時間外労働は、三菱自動車の社内システムであるログイン・ログオフデータを元に算出された、と遺族側は明らかにしている。労基署の担当者はテレワークを行う際、そういうシステムかソフトを自分のパソコンにも入れておけばよいと示唆しているようだ)

――在宅ワークをする人に、こうすれば労働時間の裏付けになるというアドバイスはありますか。

担当者「私の立場ではアドバイスはできません。あくまで個別の案件ごとに具体的に裏付けをとって判断していくだけです。テレワークが当たり前になってきていますが、現状では率直に言って、働いていたかどうかの証明は非常に難しいと認識してください」

――やはり最近、在宅ワークの人からの訴えが増えているのでしょうか。

担当者「それについてもお答えできません。ただ、問い合わせに対しては、何時から何時まで継続的に仕事をしていたという『裏付け』になるものと、会社からの具体的な業務指示の有無が非常に重要だとお答えしています」

(福田和郎)

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