新型コロナウイルスをめぐる緊張がなお続く中で迎えた株主総会のシーズン。感染拡大の影響で経済活動が鈍化し、国内市場に上場する企業のあいだでは役員報酬の削減、返上するケースが増えている。
グローバルコンサルティングファームのウイリス・タワーズワトソンが、役員報酬の削減を公表した日本企業を調査したところ、その中には時価総額ランキング上位500社に含まれる企業が29社あることがわかった。
小売業とサービス業で5割超を占める
ウイリス・タワーズワトソンは、自主返上を含む役員報酬の削減を公表した国内の上場企業を調査。その結果、新型コロナの影響で役員報酬の削減が明らかになったのは、報道ベースを含め190社だった(調査は、2020年3月1日~5月31日に実施)。
さらに、この190社を時価総額別にみたところ、ランキングの「上位500社」に含まれる企業が、ビックカメラ、三越伊勢丹ホールディングス、すかいらーくホールディングス、ゼンショーホールディングス、イオンなど29社あることがわかった。
501位から1000位も29社、1001位以下が132社だった。
業種別では、小売業が62社と最も多く、次いでサービス業が39社で、この両者で全体の5割以上を占めた。
時価総額上位500に含まれる企業29社について、タワーズワトソンは、報酬削減をめぐり、内容や期間などを掘り下げて調査。それによると、一部詳細が不明な企業もあるが、29社ほとんどで業務執行役員を対象とした固定報酬(月額報酬)の削減を実施。削減対象として、会長や任意の執行役員、グループ会社役員、社内監査役が含まれる事例もあるが、社外役員に対する報酬削減は、三菱自動車だけだった。
会長、社長、その他の業務執行役員に対する削減割合は、職位に応じて設定している企業が多いなか、下位の職位については10%とする企業が多数。一方、上位の職位については、5%(SUBARU)から60%(丸紅)とバラつきが見られた。
削減期間は3か月~6か月が大半。三菱自動車や東宝の1年間、小糸製作所の10か月というケースもあった。
欧米企業と同じ道をたどる可能性も
タワーズワトソンによると、新型コロナの感染拡大がより深刻な欧米企業では、経営陣の報酬削減で日本に先行。米S&P500株式指数を構成する企業では17%、英FTSE100の企業では25%が、経営陣の報酬削減を実施しているという。
企業の役員らの報酬削減の意義について、タワーズワトソンのコーポレートガバナンス・アドバイザリーグループ、宮川正康ディレクターは、
「経営陣は、顧客や従業員や、地域社会をはじめとしたすべてのステークホルダーとともに今回の危機を乗り越えることを決意表明し、実際に変革のリーダーシップを発揮することができるのか、その真価が問われている。危機への対応として報酬・給与の削減が必要であれば、リーダー自らが規範を示す必要もあるだろう」
と、述べている。
新型コロナの感染「第2波」が懸念されるが、今後の景気の状況次第では、日本の大手企業でも、さらなる決意表明を求められ、欧米の企業と同様の道をたどる可能性があるという。
宮川ディレクターはまた、今回の報酬削減が「コロナ危機対応の臨時的な手段にすぎない」ことを指摘。感染の状況が今後どうなるか不透明なことから、「ウィズコロナ、アフターコロナ時代に向けた新しい人事・報酬制度や評価制度のあり方を模索していく必要もあるだろう」としている。