海外の機関投資家が日本企業に対し、取締役に女性を起用するよう迫っている。女性取締役がゼロの企業には、株主の権利を行使して社長選任に反対するというから、幕末ペリーの「砲艦外交」並みの強硬手段だ。
背景には、女性の活躍を促す世界的な社会的責任投資の動きがあるというのだが......。いったい、どういうことか。
米ゴールドマン「女性取締役ゼロの企業は支援しない」
発端は米金融大手のゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントが上場を支援する企業に対して、女性役員登用を求めた動きだった。米誌ニューズウイーク(2020年1月24日付オンライン日本語版)「ゴールドマン・サックス、上場支援企業に女性取締役の採用を義務付けへ」が、こう伝える。
「米ゴールドマン・サックスは、同社が上場支援サービスを提供する企業に対して、少なくとも1人の『多様な』取締役を置くことを義務付ける。今年6月30日から実施する。デービッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)が1月23日、米のニュース専門テレビ局CNBCで明らかにした。ソロモンCEOは『多様』な取締役の定義は明らかにしなかったが、実質的には女性が対象になると述べた。女性取締役が1人もいない場合は、新規株式公開(IPO)の引受業務を行わないという」
ソロモン氏は女性取締役がいる企業のほうが、上場後により大きな株価上昇が見込まれると指摘した。ゴールドマンのデータによると、女性取締役が少なくとも1人いる企業の株価は、上場後1年に44%上昇したが、女性取締役がゼロの企業の株価は13%の上昇にとどまった。そして、2021年6月からは女性取締役を2人以上とすることを求めるとしている。
ソロモン氏は、
「(新方針によって)いくつかの案件を失うかもしれないが、『ESG投資』(社会的責任投資)の流れで、投資家も上場企業に女性取締役の起用を促すようになっている」
と語ったのだった。
こうした動きが海外の機関投資家に一気に広がり、女性役員が非常に少ない日本企業にとって「黒船襲来」のような状況になったことを、日本経済新聞(2020年6月16日付)が「『取締役に女性起用を』海外投資家が迫る ゼロなら社長選任に反対も 起用の日本企業6割」という見出しで、こう伝えている。
「海外の機関投資家が企業に対し、取締役に女性を起用するよう促している。女性がいない場合は社長の選任に反対するなど、強い姿勢を示す投資家も出てきた。政府も企業統治指針などで女性活躍を促すが、主要企業でも女性を起用するのは6割にとどまる。来週(6月22日週)以降、本格化する株主総会の際にも説明を求められそうだ」
日本経済新聞は、女性取締役がゼロの企業に対して社長などの選任に反対すると公表している海外の機関投資家の名前を、次のようにあげている。
英運用会社のリーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメントは、その国の主要企業100社について女性がゼロの場合に社長の選任に反対する。冒頭に述べたゴールドマン・サックスは、もっと厳しい。すべての投資先に対して、女性取締役がゼロの場合は、候補選定を担う取締役全員の選任に反対するというのだ。
米金融大手ステート・ストリート・コーポレーションの資産運用部門であるステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズは、来年(2021年)からだが、女性取締役がゼロで、同社との対話に前向きではない企業に対して、すべての取締役の選任に反対する。
また、米議決権行使助言会社のグラスルイスは、これまでは日本の主要企業100社を対象に、女性取締役がゼロの企業の社長や会長の選任に反対するよう助言してきたが、今年から東証1部・2部の全企業に広げるという。
日本企業の女性登用は中東諸国並みの低さ
日本経済新聞がこう続ける。
「日本企業側には危機感が広がっている。JR東海は6月23日の総会に諮る取締役候補の女性はいない。『発足当時の労働基準法で女性の深夜労働が原則禁じられており、採用が限定的にならざるを得なかった』と女性を取締役から排除する考えはないことを説明し、株主へ議案の賛成を求めている」
そして、投資家の姿勢が強硬になっていることについて、グラスルイスのリサーチシニア・ディレクター、上野直子氏のこんなコメントを紹介している。
「(日本企業の女性の取締役・管理職比率が低すぎるので)今のうちに社内でも女性の役員となる人材の候補を厚くしてほしいとの意図があります」
ところで、政府は2013年に「女性活躍推進企業統治指針」の中で、「女性取締役」の比率を2020年にまでに全企業の役員の30%にまで引き上げることを目標に掲げた。実際はどうか――。東京商工リサーチが2019年8月に発表した「上場企業2316社の女性役員比率調査」によると、全役員総数のうち女性役員が占める割合は4.9%にすぎない。また、女性役員がゼロの企業も57.6%と、全体の6割近くに達した。
これが世界のレベルに比べると、いかに恥ずかしい状況か。日本経済新聞(2019年3月22日付)「世界の女性管理職比率は27%、ILO調査 日本はG7最低」が、こう伝える。
「国際労働機関(ILO)は、2018年に世界の管理職に占める女性の割合が27.1%だったとする報告書を発表した。日本は12.0%と主要7か国(G7)で最下位。女性のリーダー層への登用が遅れている。地域別では米州が39%と最も高く、アジア太平洋が22.5%、最も低かったのはアラブ諸国で11.1%だった。役員に占める女性の割合はG7ではフランスが37%とトップで、平均では約23%。日本は3.4%にとどまる」
つまり、日本企業の女性が管理職に占める割合は、アジアの平均をはるかに下回り、世界最低の中東諸国にほぼ匹敵するレベルなのだ。
日本ビジネス界の女性差別は米国の人種差別並みの問題
今回の海外投資家の日本企業に対する「女性取締役」推進の「外圧」について、ネット上では「黒船襲来じゃないと変われないのが嘆かわしい」という声が圧倒的に多い。
「海外投資家に迫られないと変われない日本企業。ガッデム! 海外からの圧力に関係なく自国内で変革するということが、なぜできないのか。働き方改革全般でもそうだが、ことに女性が関係することについてはそれが激しい」
「日本のビジネス・政界の女性比率の低さは相変わらず。海外から見ると、まるで男性だけが生息している別の惑星のようだ。アメリカの人種問題に匹敵する大変クリティカルな問題だよ」
「最初のフェーズでは、少し強制された多様性でもスタートとしては構わないと思う。そうでないと今の硬直した日本では、大事な多様性の富んだ組織、また社会へのシフトは動かない」
「JR東海が『発足当時の労働基準法で女性の深夜労働が原則禁止されており...』と弁解するけど、深夜に経営マネジメント講座でもやっていたの? 昼夜365日会社に尽くせる人間しか認めてこなかったのがそもそも異常だ。プロパーしか役員になれないのはなぜだ」
「取締役以前に女性管理職がいないので、起用しろと言われても人材がいないですよね。若くて優秀な女性社員が多いのに幹部に少ないのは、産休、育休からの復帰後の対応に問題がある。重要な難しい仕事を任すべき時期に、周囲が経験を積ませることを避けたり、本人が遠慮せざるを得ない空気があったりする。会社全体で本気で変えないと女性幹部は増えない」
「私は男だが、女性が役員にいてほしいと思うことが多々ある。女性視点でないとわからないことがたくさんある。現状は女性メンバーの意見を聞いたり、他社の女性の経営者から聞いたりして解決していますが」
また、こんな声も。
「私はかつて無理に取締役会に女性を加える必要はない、と思っていた。しかし過去2年、女性が多く活躍している東南アジアの企業をいろいろ取材した後、考えが変わった。日本企業の『生え抜き、中年、初老』の男性で固めた取締役会は、かなりヘンだ」
一方、「黒船襲来」は内政干渉だ、という反発の声も少なくない。
「取締役になりたいという女性が日本にどれだけいるのでしょう? 欧米はアジア人差別がひどいですが、そのほうが問題でしょう? 自分たちの差別意識を隠すために、日本を『女性差別』と批判しているだけですよ」
「日本には、長い歴史で育まれてきた独特の文化や思想がある。それを、なんでも『ガラパゴス』と呼び、『国際基準』に乗り遅れているとさげすむ風潮に乗っかる必要はあるのだろうか? そのうち『英語』が国語になってしまうよ。そんな国がアジアに多いが、情けないことだ」
女性か男性かではなく、取締役は「能力」で選任すべきだという声も多かった。
「オッサンマインドが土台になった人ではなく、さまざまな性の強み弱みを理解して生産性を高められる人が取締役になるべきでしょう。不平等な評価システムの結果として取締役に女性がいないのなら問題だが,そうでないなら女性を取締役にするのが目的になってしまうは、かえってヘイトだと思う。一律に企業に女性の起用と求めるのは違うかなと思う」
「この話題はいつも不思議でしかない。女性が先で能力には触れていない。能力がある女性はどんどん上に立つべきだが、女性管理職比率目標ありきで、とにかく上に立たせるのは、本人にとっても周囲にとっても不幸な話だ。男女関係なく、平等に評価される社会であってほしい」
(福田和郎)