「三冠王」なのにカーブを打てなかった?
そんな野村さんも、現役時代はカーブを打つのが苦手だったという。ストレートを待っていて、カーブが来ると体勢を崩して空振り――という打席を繰り返した。器用な選手はストレート待ちながらカーブが来ても、気が付くと体勢を止めてタイミングを合わせられる。「不器用」な野村さんには、それができなかったので、「考える力」で克服に努めた。
不器用さを積極的に認め、一打逆転の場面で打席が回ってきた時も、ヘンな欲を出さず、「ここなら、こうしなくては」「こういうやり方もあるな」と考えて対応した。こうした場面を潜り抜けていくと、それまで以上に不器用を克服するための研究や対策を熱心にできるようになった。カーブを打つのが苦手だったにもかかわらず、数々のタイトルを手にできた理由がここにある。
野村さんは続ける。
「努力したからといって、すぐにいい結果が出るわけではない。しかし、地道な努力を続けている人間と、何もしないで遊んでいる人間とでは、1年、2年後にものすごい差が出てくる。『アリとキリギリス』ではないが、長期的展望に則ったプロセスを経ていくことが重要なのだ」
プロ野球界で長く、さまざまな選手を見てきた野村さんの言葉だけに、リアルに、ズシリと迫ってくる。
本書では、具体的に名前を挙げて、球団や監督に対する評価にも筆が及ぶ。開幕後、実際の試合を見ながら、野村さんの評価を検証する楽しみ方もできそうだ。
「上達の技法」
野村克也著
日本実業出版社
税別1400円