「なるべく働かずに生きる」限界集落ニート、山奥テレワークの参考にできるかも!

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   新型コロナウイルスの感染は、都市部でより拡大する傾向だった。そのせいか、会社の仕事のテレワーク化を背景に、郊外あるいは地方への移住を考えている人も少なくないらしい。なかには、人気テレビ番組「ポツンと一軒家」(テレビ朝日系列)に触発されて「山奥」を視野に入れている人もいるかもしれない。

   本書「『山奥ニート』やってます」は、テレワークや働き方などに関連して書かれたものではないが、読めばますます「山奥テレワーク」に傾いてしまうかもしれない。山奥に住むと、テレワークともども会社を辞めても、「ニート」がサバイバルのヘッジになることがわかるのだ。

「『山奥ニート』やってます」(石井あらた著)光文社
  • 「山奥ニート」は限界集落で都会的生活
    「山奥ニート」は限界集落で都会的生活
  • 「山奥ニート」は限界集落で都会的生活

「地方都市より都会的」な生活

   著者の石井あらたさんは、和歌山県田辺市の山奥にある限界集落で、ニートや引きこもりになった若者の居場所づくりをしているNPOの代表。自身も引きこもりから、この場所で暮らすようになった。その体験をつづったのが本書。生活の本拠地は「何十年も前」に廃校になった平屋建ての木造校舎。ここに15人の若者が暮らしている。

   限界集落ではあるが、その生活は「その辺の地方都市より都会的」。大いに寄与しているのは「通信の発達」。「電話にメールにブロードバンド」が使え、「都会と田舎の差はずっと小さなものになった」という。

   「ポツンと一軒家」的なロケーションも、現代では、立派にテレワークの候補地であることがわかる。

   元小学校の施設があるこの場所は、紀伊半島南部の山中で、最寄りの鉄道駅からクルマで2時間。周りに商店などはなく、徒歩圏内にほかに住んでいるのは5人だけで、いずれも高齢者。平均年齢は80歳オーバーだ。都会の暮らしに疲れているテレワーカーの中には、ますます絶好の場所にもみえて来ている人もいるだろう。

   都会的な暮らしも可能な山奥だが、実際に暮らしてみて、合うか合わないかは人それぞれ。著者がこの地に住んで5年になるが、その間、都会で一流企業に勤めていたという人が、近くに引っ越してきたことが何度かあったという。

   だが、その全員が1年以内に都会に戻っていったそうだ。

「かぎりなく自由」に暮らす

   この都会に戻った人たちと違って、山奥での暮らしは続けたいが、「たとえテレワークであっても、会社に勤めるのはもうこりごり」などという場合はどうすればよいか――。

   本書の舞台の元小学校の施設に住む人たちは「なるべく働かずに生きていく」ことを実践している。生活費は月に1万8000円を施設側に納め、これで食費、光熱費はOK。家賃はいらない。入所者の主な収入源は梅の収穫などの報酬、集落の高齢者住人の手伝いをしてもらえる小遣いだ。

   こうしたこと以外、仕事らしい仕事はしていない。やっていることは、アニメをみることだったり、ゲームだったり、SNSだったりと、都会でひきこもりをしていたころと変わらないという。

   著者の場合は「ただ、ひきこもる範囲は自分の部屋から、この集落に広がった」そうで「かぎりなく自由」を感じている。山奥での暮らしは続けたいと感じる人の、その理由はこの「自由」に違いない。

   都会の引きこもり時代は、「居場所がない」と引きこもっていた著者だが、この山奥の集落では「地域の爺さん婆さんに出会うと、あいさつするだけでいつも喜んでくれる」。そして「僕に『いてくれてよかった』とさえ言ってくれる」のだ。

   自らの存在をこの言葉で実感でき、頼りにされていることがうれしい。

   著者はまた、ここで暮らして必要に迫られ軽トラを運転するようになり、ペーパードライバーだったにもかかわらず、マニュアル車を操り山道をスイスイ移動できるようにもなった。細い道で対向車に合い、譲るべきは相手なのだが、自分のほうから渋々バックして道を譲り、お礼のクラクションに途端に気を取り直して顔がほころぶ......。

   夜には自分の手足も見えぬほどの漆黒の闇に包まれるという山奥の集落で、引きこもりの人たちはイキイキとし、「できること」を増やしていく。そのプロセスに読む側もなにやらウキウキした感じにもなる。

   自分がするかしないか、できるかできないかにかかわらず、コロナ禍を経験した都会の人にとっては、「山奥ニート」の暮らしぶりは、「新しい生活」の選択肢がさまざまあることを教えてくれるはず。

「『山奥ニート』やってます」
石井あらた著
光文社
税別1500円

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