新型コロナウイルスの感染拡大は、医療従事者に対して大変な苦労を強いている。それは、従事者本人だけではなく、家族にも影響が及んでいる。その実態を日本医療社会福祉協会のアンケート調査結果から見てみたい。
この協会のチーム医療推進協議会が2020年6月2日、「COVID-19(型コロナウイルス)による医療従事者の現状」をまとめた。
現場での感染、75%超が「不安」
このアンケート調査の回答者数は6383人。「新型コロナウイルスに対する職場で感染することへの不安について」聞くと、69%に当たる4410人が「不安はあるが勤務には影響していない」との回答。7%の430人が「かなり不安で勤務に影響がある」と回答している。
一方、「不安はない」との回答はわずか2%の135人。「不安はそれほどなく勤務している」が21%の1335人となっている。
当然、医療機関では感染予防を行ったうえ、万全な体制で医療行為を行っているのだろうが、それでも75%以上の医療従事者が感染に対する不安を感じながら勤務していることを考えれば、より一層の感染防止策の必要性がありそうだ。
その感染防止のためには、十分な医療用の物品が必要だが、「物品の不足状況について」では、未だに68.4%が「マスク」が不足していると回答。次いで59.1%の医療従事者が「消毒剤」を、以下「手指消毒剤」(49.3%)、「ガウン」(48.4%)、「フェイスシールド」(46.3%)が不足していると回答しており、まだ医療従事者に十分な医療用物品が届いている状況ではないことが明らかにされている。
「勤務する医療施設で、新型コロナウイルスに関する感染情報は十分に医療従事者に届いているのか」という点については、「情報は随時、適切な内容が十分に伝わっている」と回答した人は、50%の3187人にとどまっており、30%の1899人が「情報は随時伝えられているが、内容が十分ではない」と回答。9%の617人が「情報は、内容は十分だが、適時に伝わっていない」、10%の620人が「情報は適時伝わらず、内容も十分ではない」と回答している。
新型コロナウイルス感染の最前線で働く医療従事者にとって、感染情報は非常に需要な情報であるにも関わらず、適時適切に十分な情報が伝えられていない点は大きな課題だ。これが、75%の医療従事者が感染に対する不安を感じている理由の一つになっている可能性がある。感染情報については、早急にその体制を整備する必要があろう。
風評被害で医療従事者は人材不足か?
新型コロナウイルスの感染患者数の急激な増加、PCR検査数の急増、医療従事者への感染拡大などにより、医療従事者の不足が指摘されているところだが、「現状の人員」は十分なのだろうか――。
「もともとは比較的に人員が充足していたが、そのときと変わらない」との回答は36%の2303人にとどまり、「もともと人員が不足していたが、そのときと変わらない」が43%の2724人、「もともと人員が不足していたが、さらに感染対策の状況で不足となった」が8%の498人、「もともとは比較的に人員が充足していたが、今回の感染対策の状況で不足となった」が4%の282人、と回答している。
新型コロナウイルスの感染拡大による人員不足が発生したのは12%にとどまっているが、人員不足は過半の55%にのぼっており、医療従事者は慢性的に人員不足であることがうかがえる。感染拡大の第2波、第3波に向けて、人員面での手当を十分に行っておくことも重要な課題と言えそうだ。
さて、新型コロナウイルスの感染拡大によって、医療機関などはさまざまな被害にあっていることもわかった。その具体例の一つとして、381人が「患者・対象者に感染者がいないにもかかわらず、感染者がいると風評が流れた」と回答している。この他にも、142人が「職場自体が被害的な圧力を受けた」、130人が「感染以外の内容を関連付けた風評が流れた」、97人が「職員に感染者がいないにもかかわらず、感染者がいると風評が流れた」と回答している。
新型コロナウイルスでは医療従事者だけではなく、飲食店などさまざまな業種でも風評被害が発生している。政府は風評被害に対する対策を行う必要がある。
調査では、新型コロナウイルスの感染拡大により、「勤務先や職業を理由に不当と思われる経験をしたか」も、聞いている。その回答は、「SNSなどが拡散して、感染しているなどの噂となった」が101人と最も多く、次いで「家族が職場で、風評など不当な噂が流れるなどの扱いを受けた」が57人、「子どもが学校や保育園などで、登校や保育を拒否された」が19人、「子どもが、学校や保育園などでいじめなどの不当な扱いを受けた」も9人にのぼった。さらに、「スーパーなどの買い物などを拒否された」といった回答や、「その他の不当と思われる経験をした」も、272人にのぼっている。
こうした医療従事者を中傷する不当な行動が、医療従事者の人員不足に結び付いている可能性もある。新型コロナウイルスの感染患者にとって、医療は最後の砦だ。もちろん、新型コロナウイルス以外の病気にとっても、医療機関が必要不可欠であることは言うまでもない。
不当な誹謗中傷の類がSNSに流布することは、なにも医療従事者に限ったことではないが、投稿されたメッセージの真偽を確認もせずに「いいね」したり、拡散したりすることは情報の発信者と同じで、医療従事者を追い詰めている。こうした不当な行動はくれぐれも慎むべきだ。(鷲尾香一)