黒人、アジア人の失業率が高い格差も不安材料に
もう一つのショックなニュースとは、失業率の増加だ。じつは6月9日まで米国の株価が上昇し続けた理由の一つに、5月末に発表された失業率が13.7%と前月より1.4ポイント減って、雇用が好転したと評価されたことがあった。市場では失業率が20%くらいいくのではと見ていたから、一気に株価が上昇した。しかし、雇用の内実はそんなに甘いものではなく、深刻な問題を抱えているとわかったのだ。
ロイター(6月11日付オンライン日本語版)の「米失業保険申請154万件、10週連続減 受給数なお2000万超」が、失業者が主に黒人層に偏っている米国経済の歪みを、こう報告している。
「米労働省が6月11日発表した6月6日終了週の新規失業保険申請件数は154万2000件となった。企業のレイオフ(一時帰休)が減ってきたとはいえ、引き続き数千万人が失業手当を受けており、新型コロナ禍に見舞われた労働市場が回復するには何年もかかる恐れがある。先週末に発表された5月の雇用統計で雇用者数が250万人増加したことから、最悪期を乗り切ったとの見方が強まった。オックスフォード・エコノミクス(ニューヨーク)のエコノミスト、ナンシー・バンデン・ホーテン氏は『労働市場はトラウマとなる打撃を受けており、完全な回復は数カ月ではなく、数年単位で測られるだろう。統計内容はコロナ禍が労働者に及ぼす影響を完全に映していない』と述べた」
失業者全体は減っているのに何が問題なのか――。ロイターはこう指摘する。
「5月の米失業率は市場予想に反して低下した。だがすべての労働者がその恩恵を等しく受けたわけではない。黒人やアジア系の失業率は上昇しており、新型コロナ感染拡大でいったん休止した経済活動の再開に伴う雇用回復の流れは、一部のマイノリティーには遅れて波及していく」
ロイターが続ける。
「白人警官による黒人暴行死事件を巡り、全米で抗議デモが行われているまさに今、雇用で人種格差が存在することがデータで確認された。人種別の失業率の4月から5月の変化を見ると、黒人は16.7%から16.8%に、アジア系は14.5%から15.0%にそれぞれ上昇した半面、白人は14.2%から12.4%に下がった。失業率を算出する家計調査では、5月の新規就業者数は380万人で、就業者総数は前月比2.9%増加した。ところが増加率はやはり白人が3.3%だったのに黒人は1.7%にとどまった。景気回復局面において、黒人の雇用改善は遅れる傾向にあることが改めて浮き彫りになった」
そして、ロイターはこうした黒人やアジア人が食料品店や飲食店、流通部門などの働き手としてだけでなく、消費者としても米国経済を支えており、彼らの雇用事情の悪化が今後、ボディーブローのように米国経済に響いてくると指摘するのだった。