コロナ禍が決定打 「made in USA」の象徴 あのブルックス・ブラザーズが街から消える日(井津川倫子)

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   新型コロナウイルスの経済活動への影響が広がるなか、驚きのニュースが飛び込んできました。紳士服ブランドの老舗、米ブルックス・ブラザーズが破たんの危機に直面しているというのです。

   歴代大統領が愛用したことでも知られるブルックス。日本でも熱心なファンが多く、金色の子羊のロゴが輝くシャツやセーターが人気でした。

   コロナ禍で大手アパレルが次々と姿を消していますが、「まさかブルックスまでが......」と嘆く声が聞こえてきます。そんなブルックスですが、なぜ、米国人にとって「特別な存在」なのでしょうか?

  • あのブルックス・ブラザーズが街から消える!?(写真はイメージ)
    あのブルックス・ブラザーズが街から消える!?(写真はイメージ)
  • あのブルックス・ブラザーズが街から消える!?(写真はイメージ)

ラルフ・ローレンも店員だった!

   数か月前から、経営不振に悩むブルックス・ブラザーズが身売り先を探しているというニュースが出回っていましたが、このほど、同社CEOのクラウディオ・デル・ベッキオ氏が米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューで、米国内の工場が操業停止の危機にあることなどを率直に語り、世間を驚かせています。

'Made in America' status is in peril
(メイド・イン・アメリカの地位が危機に陥っている:米ニューヨーク・タイムズ紙)
In peril:危機に陥っている

Brooks Brothers is likely on the edge of bankruptcy
(ブルックス・ブラザーズが破産寸前だ:フォーブス誌)
on the edge of~:~の瀬戸際にいる、今にも~しそうだ、~寸前だ

   インタビュー記事によると、ブルックスは2020年に6900万ドル(約74億円)の損失を計上する見込みで、負債は3億ドル近いとのこと。

   これまで「メイド・イン・アメリカ」にこだわって国内工場を維持してきたものの、2020年7月までに買い手が現れない場合は「閉鎖」が現実的になる、と述べています。

   ブルックス・ブラザーズといえば、個人的には若い頃から全身ブルックスで揃えていた、おしゃれでお金持ちの先輩(現60代)を思い出しますが、米国人にとっては「特別な存在」のようです。

   1818年にニューヨークで創業されたブルックス・ブラザーズは、「世界最古の紳士服販売店」とされ、200年以上続く歴史の中で数多くのエピソードを誇っています。

   あの、ラルフ・ローレン氏がかつてセールススタッフとして働いていた、というのも驚きですが、クラーク・ゲーブル氏やアンディ・ウオーホル氏といった米国を代表するスターや歴代の大統領たちに長年に渡って愛されてきました。

   南北戦争の軍服を作っていたり、リンカーン元大統領が暗殺された時に同社のコートを着ていたり、初の黒人大統領となったバラク・オバマ氏が就任式でコートを着用していたりなど、歴史的なエピソードにも事欠きません。

   野心的なウォール街バンカーの「定番」とされ、「ハレの日にはブルックスを着る」のが米国のマインドでしたから、「メイド・イン・アメリカ」からの撤退はブランドの価値そのものを揺るがす衝撃的な決断だと言えるでしょう。

Zoom就活で「ブルックス離れ」に拍車が......

   ニューヨーク・タイムズ紙の記事は「国内工場の閉鎖」に焦点を当てていましたが、メディアの目を引いたのは経営状況の悪化ぶりでした。ブルックスが最近融資を受けたとされる投資会社ゴードン・ブラザーズは、店舗の閉鎖や破たん処理、企業の清算に関するプロで、今回の融資は「精算手続きが前提だろう」と推測されているのです。

   残念なことに、コロナ禍でJクルーのような大手アパレルが次々と破産に追い込まれている状況では、たとえブルックスのように米国人にとって特別な「レガシーブランド」でも、買い手はなかなか現れないだろう、という見立てが主流です。

   それではなぜ、米国の「レガシーブランド」であるブルックスが破産の危機にあるのでしょうか?

   前の親会社である英高級スーパーのマークス&スペンサーの傘下で、カジュアル路線を進めていたブルックスを「救った」とされるのが現CEOのベッキオ氏です。

   ベッキオ氏は品質向上を図り、高級カジュアル路線を「復活」させて、しばらくは右肩上がりの経営が続いていましたが、リーマン・ショック後に急激に押し寄せてきた「カジュアルフライデー」やIT企業の「Tシャツ文化」の波には勝てなかった様子。

   確かに、フェイスブック社のザッカーバーグ氏に代表される「最近のエリート」は、「ハレの日にブルックスを着る」習慣も価値観もなさそうです。

   さらに、追い討ちをかけたのがコロナ禍による「ニューノーマル」の波です。在宅勤務が広がってオフィスウェアが必要なくなったり、結婚式が次々とキャンセルになって「ハレの場」が消えたりしてしまいました。

   就職活動のオンライン化が進み、「Zoom」による面接が浸透したことも大きな打撃だと分析されています。

   確かに、「ニューノーマル」な世界ではコンサートやディナーといった「ハレの場」は敬遠される一方です。どんなに愛着があるブランドでも、着ていく場所がなければ買わないですよね。

   ニューヨーク市の工場で製造されているブルックス社のネクタイラベルには、星条旗と「ブルックス ブラザーズ。誇りとともにアメリカ合衆国ニューヨークで製造」との言葉が刺繍されているそう。コロナ禍でまた一つ、大切な灯火が街から消えてしまいそうです。

   それでは、「今週のニュースな英語」はフォーブス誌の見出しから「on the edge of~」(~の寸前)を取り上げます。「edge」は「ふち」とか「端」という意味。ギリギリの状態にあることを表します。

We are on the edge of bankruptcy
(私たちは倒産の瀬戸際にいる)

My father is on the edge of death
(父が死のふちに立たされてる)

That animal is on the edge of extinction
(その動物は絶滅の危機にある)

   新型コロナウイルスが経済に与える影響は、これから本格化するとみられています。自粛の世界を通り抜けた今、私たちはどんな「edge」に立たされているのか。全容が明らかになるのが恐ろしいと感じるのは私だけでしょうか。(井津川倫子)

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井津川倫子(いつかわりんこ)
津田塾大学卒。日本企業に勤める現役サラリーウーマン。TOEIC(R)L&Rの最高スコア975点。海外駐在員として赴任したロンドンでは、イギリス式の英語学習法を体験。モットーは、「いくつになっても英語は上達できる」。英国BBC放送などの海外メディアから「使える英語」を拾うのが得意。教科書では学べないリアルな英語のおもしろさを伝えている。
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