安倍晋三首相が「世界で最も手厚い支援」と胸を張ったコロナ不況への緊急経済対策。なかでも、中小企業向けの「持続化給付金」の支給をめぐって、大手広告会社の電通の動向に注目が集まっています。
約2兆3000億円の予算がついた大型事業を委託された一般社団法人が、実体のない「トンネル会社」だったことが判明! しかも、受注金の97%が電通に再委託されていることから、海外メディアは「電通は『棚ぼた』式に大金を手に入れた!」と報じました。
ロイター通信、安倍首相のコロナ対策を「下手くそ」と批判
「総力を挙げて、スピード感を持って支援を届ける」
そんな安倍首相の力強いメッセージとは裏腹に、不評を買っていた「持続化給付金」。新型コロナウイルスの影響で売上高が大きく減った中小企業などに最大200万円を支給する「看板政策」でしたが、入金が遅れるなどのトラブルが相次いでいました。
「いつまでたっても支援金が届かない」とイライラが募るなか、なんと給付作業を国が業務委託している法人が、電通とパソナの「トンネル法人」だったことがわかり、海外メディアも大きく取り上げました。
Japan's Dentsu gets $700 mln windfall from gov't SME aid scheme
(日本の電通は、政府の中小企業支援策で700万ドルの大金を棚ぼた式に手に入れた:ロイター通信)
windfall:思いがけない大きな収入、棚ぼた式に手に入った大金
SME(small and medium-size(d) enterpriseの略:中小企業
「windfall」は、「wind」風が吹いて「fall」落ちる、という意味。努力していないのにどこかから風が吹いて果実が落ちてきた、つまり「棚からぼた餅」というニュアンスです。
実際、「トンネル会社」とされる「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」が政府から受注した769億円のうち、97%に当たる749億円が電通に「再委託」として支払われていました。
それだけではありません。そもそも、「トンネル会社」の設立にも電通が関わっていたことから、
「初めから電通ありきの政策だ」
「安倍首相のお友達会社で税金を分け合っている」
と批判されているのです。
ロイター通信は、「windfall」(棚からぼた餅)というインパクトのあるワードを用いて、「電通は何もしないで大金を手に入れた」というニュアンスを伝えることに成功しています。
さらに、不透明なスキームの追求は、「コロナ対策が『clumsy』(下手くそ、不器用)だと批判されて、安倍晋三首相の支持率が下がっている中で起きている」と、失策続きの安倍政権にとって、新たな打撃となることも示唆しています。
コロナ禍に便乗した「棚ぼた商売」の香りがプンプンするこのニュース。世界各国のメディアも相次いで報じました。
電通は、東京五輪の延期で儲けを「粉砕された」
それにしても、海外メディアはなぜ、電通の「棚ぼた商売」に注目するのでしょうか?
ロイター通信は日本における電通の存在を、「広告会社の域を超えて、ケタ外れに大きな役割を果たしている」と解説しています。
Dentsu plays an outsized role in Japan beyond its dominance of the advertising industry, including providing services to the government.
(電通は広告産業での圧倒的な立場を越えて、政府へのサービス提供などケタ外れに大きな役割を果たしている)
そして、ケタ外れの影響力を持つ電通が、東京五輪の延期によって巨大な損害を被ったと指摘しているのです。
Dentsu's Olympic year torpedoed by coronavirus outbreak
(電通の「五輪イヤー」は、コロナウイルスの襲来でぶち壊しになった)
「torpedo」は「魚雷」です。この場合は、「魚雷」を打ち込まれたように「粉砕された」「ぶち壊された」という意味になります。東京五輪での「儲け」をあてにしていた電通が、コロナ禍による延期で「ぶち壊しにされた」というのです。
実際、電通グループが2020年度の業績予想を取り下げると発表したことは、国際的にも大きなニュースになりました。新型コロナウイルスの影響で大幅な収益減少が想定され、特に、第2四半期にあたる4月から6月にかけてが「年間を通して最も厳しい」としています。この「最も厳しい」時期に「支援金ビジネス」で大金が転がり込むとしたら、「棚からぼた餅」であろうことは容易に想像がつきます。
東京五輪延期の損失を補うために、私たちの税金が大量投下されているとしたら、お門違いも甚だしいところです。支援金支給の裏でうごめく利権ビジネス。もし、東京五輪が予定どおり開催されていたとしたら、いったいどれだけの「利権」が発生していたのでしょうか――。海外メディアが電通に注目するポイントは、このあたりにあるのかもしれません。
それでは、「今週のニュースな英語」は、「windfall」(棚からぼた餅)を取り上げます。
It is a windfall
(それは、棚からぼた餅だね)
It is a windfall gain
(それは、棚ぼた式の利益だね)
This product earns windfall profits
(この商品は棚ぼた式の利益を稼いだ)
I got a big windfall
(思いがけない大金を得た)
見方を変えれば、コロナ禍のおかげで「利権」にどっぷりと浸かった安倍政権の実態が浮き彫りになったとも言えます。税金の使い道に関心を持つ人が増えて、好き放題にやってきた政治にブレーキをかけることができたら、私たちにとって「windfall」(思わぬ利益)ではないでしょうか。(井津川倫子)