【襲来!新型コロナウイルス】景気の戻りは3年後!株価の好調も一巡後は重い展開か? 各シンクタンク緊急リポートを読み解く

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   緊急事態宣言が2020年5月25日に全面解除されて、新型コロナウイルスの第2次感染拡大の不安がくすぶるなか、日本経済はようやく活動を再開した。

   果たして、いつになったら景気は元に戻るのだろうか? 民間の経済シンクタンクが相次いで解除後の日本経済の行方を見通す緊急リポートを発表した。それらエコノミストの分析を読み解くと――。

  • どうなる!? 日本経済(写真は、東京証券取引所)
    どうなる!? 日本経済(写真は、東京証券取引所)
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今年秋に第2波が来ても来なくても景気が低迷する!?

   緊急事態宣言の全面解除で、景気の戻りは早まるのだろうか――。 「消費の戻りは当分、半分程度だろう」と悲観的に予測するのは、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト木内登英氏だ。同研究所の5月25日付リポート「緊急事態宣言解除で個人消費の戻りは半分か」では、まずGDP(国内総生産)に与える影響を、こう予測している。

「(全面解除されたことで)5月の個人消費抑制の影響は11.2兆円となり、GDPを2.0%押し下げることになる。4月の個人消費抑制の影響は10.7兆円と試算されることから、個人消費抑制の影響だけでみても、5月は前月比でなおマイナス成長を続けるとみられる」

   消費が回復するには、人出が戻らなくてはならない。木内氏は、それを考える手がかりとして、東京都など5都道県より先に緊急事態宣言が解除された地域での人出の戻りのデータを調べた。緊急事態が解除されてから10日後の人出を、緊急事態宣言中と比較したのである。

   すると、感染拡大前の約半分程度(48.3%)戻して、ほぼその状態で推移することがわかった=下図参照。緊急事態が解除されても、人々の外出行動は感染のリスクを意識した、いわゆる「新しい生活様式」の影響を受ける。木内氏はこの半分程度の戻りが当分続くだろうと見たのであった。

(図表1)緊急事態解除後の人出(野村総合研究所作成)=木内氏のリポート
(図表1)緊急事態解除後の人出(野村総合研究所作成)=木内氏のリポート
「その結果、個人消費が、新型コロナウイルス問題が生じる前の水準に戻ることは当分の間はないだろう。これを前提に、6月の不要不急の消費は元の水準の50%程度(48.3%)とすれば、個人消費抑制の効果は7.2兆円、GDPを1.3%低下させると試算できる。4月の個人消費自粛の影響10.7兆円、5月の同11.2兆円と比べて小さくはなるものの、消費自粛の傾向はなお強く残ることになる」

というが結論だった。

   もっと長いスパン、2~3年後を見通すと、どうなるのだろうか。「国内経済が回復するのは3年後まで待たなくてはならない」と厳しい見方を示すのは、新生銀行金融調査室の伊藤篤氏と森翔太郎氏だ。新生銀行グループ(5月28日付)のリポート「緊急事態宣言解除後の日本経済見通し」によると、「緊急事態宣言が全面解除されても消費の急回復は見込めない」として、総務省の家計調査を元に、いかに消費が落ち込んでいるか、細かく具体的に分析している=下図2参照

(図表2)新しい生活様式下での消費傾向(新生銀行作成)=伊藤篤氏のリポート
(図表2)新しい生活様式下での消費傾向(新生銀行作成)=伊藤篤氏のリポート

   たとえば、こんな案配だ。

「飲食店等の営業自粛により4月の『外食』は前年同月比で30%の大幅な減少。テレワークの増加で『交通』も51%減。一方、在宅時間が長くなり、外食以外の『食費』は6%、『通信』も7%の増加だ」

   こうした消費の落ち込み傾向は「新しい生活様式」によって解除後も続き、2020年度の実質GDP(国内総生産)を9.8%押し下げるという。

   そして、長期的にみると、次のようなマイナス材料が次々に襲来するだろうと予測する。

(1)2020年7~9月期=国内で第2波の襲来を警戒した経済活動の低迷。同10~12月期=第2波襲来の可能性。仮に第2波が来なくても、それは企業や家計が「新しい生活様式」を徹底したためであって、それは経済活動の限定を意味する。つまり、急速に景気が回復すれば第2波は避けられないし、第2波が来ないとすれば、それは景気が低迷しているからというわけだ。
(2)2020年10~12月期=海外で第2波が襲来。特に懸念が大きいのは欧米を中心にした第2波のリスクだ。国際経済が停滞して、日本の輸出が大幅に減少する。
(3)世界的な第2波の襲来により、2021年1~3月期の景気回復は非常に緩やかになる。

   こうしたことにより、

「2019年7~9月期の水準にまで国内経済が回復するのは、2023年度以降になると考えられる」

と結論付けているのだった。

「コロナのショック療法」でデジタル化を命がけで進めよ

   ニッセイ基礎研究所のチーフエコノミスト矢嶋康次氏と、研究員の鈴木智也氏も、時期は明記していないが、「経済がコロナ危機以前の水準まで回復するには長い時間がかかる」という立場だ。

   「緊急事態宣言 完全解除-感染防止と経済再開の新しい両立の道を目指す」(5月25日付)というリポートでは、その難しさを、こう述べている。

「ワクチンが早期に開発されて、世界に広く供給されるという『V字回復』の前提が揃わない中では、コロナとの共存を考えた『新たな生活様式』を模索せざるを得ず、社会全体が『With コロナ』の新状態に適応することが活動水準を上げるためのカギになる。企業にとっては、その適応能力が運命を分けるものとなるだろう」

   現在は、防疫対策を優先する「フェーズI」から感染防止と経済活動の両立を目指す「フェーズII」に移ったが、厄介なのは「フェーズIII」へと移行するのに、どれだけ時間がかかるか、誰もわからないことだという=図表3参照。図の「PL問題」とは、この期間に起こるであろう「欠陥商品」の問題、「BS問題」とは財務状況の悪化の問題だ。

(図表3)新型コロナウイルスの対応(ニッセイ基礎研究所作成)=矢嶋氏のリポート
(図表3)新型コロナウイルスの対応(ニッセイ基礎研究所作成)=矢嶋氏のリポート
「フェーズIIIに移るには、有効なワクチンの開発、または治療法の確立が必要だが、感染の第2波や第3波が来た場合には、防疫対策を最優先にしなければならず、フェーズIへと逆戻りする可能性も高く、企業には流動的な事態への対応を求められる」

   そんな中で矢嶋氏らが提案するのは、コロナ危機をショック療法として、フェーズIIの段階で「アフターコロナ」を見据えた対策をとることだ。こう指摘する。

「今回の危機では、日本全体のデジタル化が、諸外国に比べて周回遅れになっているという事実が、改めて認識される結果となった。社会のデジタル化は、コロナ禍への対応という意味でも、将来の成長を目指すうえでも、極めて重要な問題だ。直ぐにでも具体的な行動に落とし込んでいかなければならない。
6月は、毎年『骨太の方針』が打ち出される季節だ。デジタル化に関する問題だけは、数年で達成を目指すというような悠長なことは許されない。民間は、生き残りを掛けてデジタル化を急ピッチで進めている。行政や公的部門が、未だアナログな仕組みを当たり前にするようでは、民間の生き残りに向けた動きを阻害し、この危機を乗り越えることも困難にする。今回の骨太では、これまで検討に留めていたものや、将来の達成時期だけが示されてきたものを、今年でやりきるといった強い姿勢に変わるかどうかが注目される」

異様な高値が続く日経平均株価の末路は?

   さて、コロナ禍の最中にもかかわらず、ここ数日、株式市場が異様な高値で推移している。2020年5月28日現在、日経平均株価は4日続伸して2万1900円台で引けた。約3か月ぶりの高値だ。株式市場は今後どうなるのか――。

   「全面解除の期待から上昇を続けているが、期待一巡後は上値の重い展開になる」とみるのは、三井住友DSアセットマネジメントのシニアストラテジスト市川雅浩氏だ。「市川レポート:2万1000円台を回復した日経平均株価の今後」によると、こうだ。

「緊急事態宣言の全面解除を受け経済活動再開への期待から日経平均は2万1000円台を回復したが、航空や鉄道など出遅れ銘柄の上昇が目立ち、業績底打ちのシナリオの織り込みが進んだ可能性がある。ただコロナの影響は長期化の可能性が高く、期待一巡後の日経平均は上値の重い展開が見込まれるだろう」

   最近の動きには、国内経済活動再開への期待があると同時に、欧米諸国の主要株価指数が総じて堅調に推移していることも、日本株の買い安心感につながっている。また、事業規模が100兆円を上回る第2次補正予算案への期待も大きい。今後は、どう推移するのか。市川氏は数式を使って試算した。

   「次に意識される水準は2万1650円近辺だが、今後の日経平均株価の動きについて、上値の重い展開を予想するという。コロナの影響は長期化する可能性が高く、日本を含め、多くの国で景気回復のペースは緩慢なものになる。市場の期待はほどなく一巡し、感染拡大の第2波や、香港を巡る米中対立などの動きに関心が移っていく」としている。

   「日本株が下落前の水準に戻るのは3年かかる」と指摘するのは、ニッセイ基礎研究所の准主任研究員前山裕亮氏だ。

   「日本株、下落前の水準に戻るのに3年以上かかる可能性」(5月27日付) というリポートの中で、前山氏は先行きが見えないコロナ禍の状況にあって、「BPS」という指標に注目して難解な数式、グラフを使って長期的な株式相場の動きを予想したのだった。

   BPS(Book Value Per Share)とは、一株当たり純資産のことで、財務分析では企業の成長性を分析する指標の一つだ。1株に対して会社の純資産がいくらあるかを表している。

   前山氏は、こう述べている。

「(コロナ禍では)企業業績に対する不透明感が高く、先行きを見通すのが難しい。そのような環境の中では、BPS が株価、特に中長期的な株価の動向を考えるうえで参考になる。BPS は通常、一株あたりの得た純利益(EPS)のうち配当として投資家に還元されなかった分が内部留保され、成長していく」

   前山氏は、2014年3月期から2020年3月期までの足元7年間のTOPIXの動きと、BPSと内部留保の割合に一定の「法則」があることを見出したのだった=図表4参照

(図表4)TOPIXとBPSの要因分解(ニッセイ基礎研究所作成)=前山氏のリポート
(図表4)TOPIXとBPSの要因分解(ニッセイ基礎研究所作成)=前山氏のリポート

   その結果、

「やはり、急落前の水準に戻るには3年以上の時間がかかるのではないか。『半値戻しは全値戻し』という相場格言がある。企業が収益を上げ続けていれば、いつかは必ず株価は急落前の水準に戻ると思われる。ただ、そのスピードは考えている以上に緩慢で、時間がかかる可能性がある。日本株式の先行きに対してあまり楽観視せず、気長に長期投資を心がけた方が賢明なのではないだろうか」

と結論付けたのだった。

(福田和郎)

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